服選び
「うーん・・・」
「どうしたんだボス?深刻な顔して」
これ以上ないぐらい外では緊迫した膠着状態が続いているというのに。
いつものようにノック無しで入ってきたロマーリオにディーノは顔も向けずに二種類のスーツを手に持ち難しい顔をしている。
「いや、十年前のツナに会うかもしんねーだろ?だからさ、」
「まぁ可能性はゼロじゃねーが、それはこの外の状況を如何にかしてからの話じゃねえか?」
「でも会ってからじゃ遅いだろ」
金髪の美丈夫はあーコレも微妙だなと言ってスーツを後ろのベットへ投げ捨て、ついでに自分の体も投げ出した。
不貞腐れたようにゴロゴロと転がり、昔みたいなB系にするか?でも若作りって言われたら立ち直れないし、うーんなどと唸る。
アホなことを言っている駄目なボスにロマーリオは嘆息する。
全く昔からこの人はあの少年のことになるとどうしようもない。
「見掛けに気を使うのもいいが、もっと別のことに気を使えよボス」
「だーから、会ってからじゃ使いようもねーだろ?服のことなんて」
まさかツナの眼の前で服を脱ぐわけにもいかないじゃないか。
「今のツナはそーでもねぇだろうけど。
やっぱ十年前のツナからしたら、今の俺なんて凄い年上だろ?
老けたとか思われるのは御免だから真面目に選んでんだよ」
「ボスももうおっさんだもんな」
「そうそう俺ももう今年で32にな、
って煩ぇーよ!」
がばりと身を起こし最近敏感になってきていた言葉をサラッっと口にしたロマーリオに、オヤジに言われたかねーよ!などと言ってみる。
だがロマーリオはいい感じに渋味がかってきているので何だか負けている気がする。
だいぶ昔に日本で流行ったなんたらオヤジのようだ。
(あー、やっぱ無難にスーツでいくかー?)
一番妥当な道を選びそうな自分にいやいやと首を振り、ディーノはまた綺麗に片付いたクローゼットを漁り始めた。
「ツナの前ではやっぱり格好いい俺でいたいしな、うん」
「頼むからそういう恥ずかしい独り言は本当に一人の時にしてくれボス」
「ゆ、優秀な部下ならそういう時は聞かなかったことにしとけよ!」
頭が痛くなると言ったロマーリオにディーノは些か赤くなった。
だって、自分は何時だって。
どれだけ時が経とうと頼りになる兄貴分でいたいのだから。
(・・・・まぁ、本当は違う立場がいいんだけどな)
ワインレッドのワイシャツを当てながら自分に苦笑する。
あまりに尊敬の眼差しと、信頼した瞳が心地よくて。
こんなに時が経ってしまった。
違うものを望みながらも、今手の中にあるものも失いたくなどない。
そもそもボスだからなんて我侭はあの子には通用しないから。
「あーもう取り敢えずスーツだ!時間もねーしな」
「じゃ、服も決まったとこで」
「ああ」
今回の事が全て終わってから、今度こそ行動に移してみるのもいいかもしれない。
守護者達やお目付け役達の眼を盗み、この十年越しの想いを伝えるのはとても骨がいりそうだが。
「行くぞお前等!」
地響きのような頼もしい応えを背に、キャッバレーノのボスは地を蹴った。
<...fine>
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