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不自然な程ぽっかりと、記憶は無かった。
クロームが止めてくれなければ、俺は命が危なかったという。
全く身に覚えはなかったけど、リボーンが言うならそうなんだろう。
悔しいがこのスパルタ教師が真面目に言うことは、大抵正しかったりするのだ。
それに自分の命がどうとか、そんなことはどうでもよかったから。
ただ頷いて御免と謝った。
適当なことを言って外に出て空を見上げれば、大きな月。
今日は満月だったらしい。
静かに光を放つそれはとても大きくて、手を伸ばせば掴めそうだった。
無駄とわかっているのに試してみる。
見事に手は空を掻く、いっそ清清しい程に。
近くに見えてとても遠い
暖かい光を放つのに実際は酷く冷たい
そして、とても美しい
それが誰かに似ているなと思った直後、浮んできた面影に。納得した。
月は、霧に似ているのだ。
「・・・・・・・・・・・・ボス?」
振り向いて、月のように白い顔をした少女の名を呟いてから。
胸が痛んだ。
しかし一番辛いのはクロームだ。
敢えて大丈夫かなんて馬鹿なことは聞かない、そんなわけがないのだから。
代わりに礼を言った。
彼女がいなかったら、俺は死んでいたらしいから。
それにフルフルと首を振ったクロームが身体を震わせたので、か細い肩にそっと上着をかけた。
寒さからくるものじゃないとはわかっていたけども、気付かないフリをして。
クロームが有難うとぽつりと呟いたので、自分の下手さ加減にげんなりしたのだけれども。
その後は一緒にただ月を見上げていた。
クロームが静かに流した雫が、酷く綺麗だと思った。
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