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『ブラ☆コン』3

地元小を卒業し、そのまま地元の中学へ進学した正寿を追うように弟の寿希も同校へと入学した。
見目麗しい弟は女にモテる。
それは物心ついた頃からの習慣であったので、正寿はあまり気に留めなかった。
真新しい学ランに身を包み喜々として凡兄の教室へ通いつめる美形弟の姿は、その入学から僅か一か月経たぬ間にちょっとした名物になっていた。
今日も今日とて昼休み。
ガラリ、戸が引かれる音にクラスの女子がきゃあと色めく。
「にーちゃん飯くお!」
「こっち」
女子の視線が付きまとうのにやや辟易するが、全ては弟に向けられていると承知している正寿はいつものように手招きで寿希を呼ぶ。
初めこそ女子の注目を集める一年坊に男子勢の殺気じみた感情が漏れていたが、単純に兄にしか興味を抱かない寿希を見慣れ、今や呆れ顔ながら歓迎している。
「寿希、お前飯食う友達いねーのかよ」
と正寿の級友が訊ねれば、
「飯はにーちゃんと食うから美味いんス」
と即答され、質問者は「ですよね…」と苦笑を正寿に向けた。
意見を求められるような視線を捉えた正寿は首を傾げる。
「別に、美味いもんは誰と食っても美味い」
言って、黙々と箸を動かす。
寿希は白米を口へ運びながら、笑顔で兄の食事風景を眺めた。
幼少から兄弟と付き合いのある者は、相変わらずのブラコンだと肩を竦め、中学からの友人達は異様だとは思いつつも慣れ始めていた。
「にーちゃん、米粒付いてる」
「おう」
自然な仕草で寿希の手が兄へ伸びる。
つつ、と触れざまに指先が頬を撫でて、それから正寿の頬に取り残された米粒を摘み取った。
寿希は平然とその米を自らの口に入れる。
周りは唖然とそれを見、一瞬時が止まったかのように、不自然な静寂が教室を包んだ。
突然食事の手を止めた級友達に気付き、正寿が訝しげな表情を浮かべる。
「食わねーの?」
「いや、」
もごもご不鮮明な言葉を呟くが、何故か向けられたイケメン弟の睨みをきかせた視線に無言で脅され、級友は食事を再開する。
正寿は弟の仁王顔には気付かず、既に弁当を味わい始めていた。
この弟のブラコンはいつものこと。
慣れちゃえば、まあ。
とは思いつつ、あまり兄弟を直視しないように昼食を続ける学びやの友。
「にーちゃん、俺の竹輪食って」
「うん」
「はい、あーん」
「あー」
「おいしい?」
「うん」
視界に入れずとも耳に入る新婚夫婦のような甘い会話に、耳を塞ぎたくなる兄の友人達だった。


終.




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