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『弱者の兵法』
王道×平凡

「ちょっと、橋谷!どーいうつもり!?」
「すんません……」

俺は今、薄暗い校舎裏で数十人程の美少年達に囲まれている。
彼らはみんな華奢で中性的な顔立ちは迫力に欠けるのだが、しゃがみ込み膝を抱える俺を恐ろしい数で真上から見下ろして来るので、威圧感は十分だった。
一歩前へ踏み出し発言しているのは集団のリーダー格にあたる人物で、吾妻先輩という。
肩書きは生徒会長親衛隊隊長と仰々しい。
その左右にはそれぞれ生徒会副会長、会計、書記、庶務、はては風紀委員の親衛隊隊長が並んでいて、背後にはそれぞれの隊員を引き連れていた。
数こそは兵器……なんて薄ら寒く感じていると、吾妻先輩がほっぺたを赤くしてプルプルと震え始めた。

「あ、あのっ」
「せっっっかくシチュエーション整えてやったのに……逆効果になっちゃったじゃん!!」
「ごごごめんなさいいい!」

吾妻先輩のブチ切れを封切りにあちこちから罵声が飛んでくる。
それは「しっかりやれよヘタレ!」であるとか「タマ無し橋谷」だとか……。
とは言え皆様の言い分もごもっともなのである。
これ程の大人数に“協力”してもらっているというのに、俺ときたら本懐を遂げる事どころか失敗して、おめおめと逃げ帰ってしまったのだから。

「橋谷、お前が上手くやらなかったせいで生徒会の皆様があの糞にますますご執心になっちゃったでしょ!」
「本当にごめんなさい!…でも糞呼ばわりは辞めたげて!」
「ウルサイな。橋谷の失敗とあの糞のせいで僕らの信用もガッタガタなんだよ!元々利害が一致してたから協力してるのに、こんな貧乏くじあるかよ!?あ?」
「スンマセンン!!」

吾妻隊長の語尾がどんどん凶悪になっていくので大人しく平伏してしまう。

「次はちゃんとしてよね!好きなら男を見せろよ!」

とプリプリして隊長達は隊員を引き連れて去って行った。
何だかんだでまた協力してくれるという事だろう。
だがしかし自分への無力感でしばらくの間顔が上げれずにいた。



先輩の言った“あの糞”とは数ヶ月前に季節外れの転校生としてこの全寮制男子校にやってきた城咲 悠の事で、俺の想い人…でもある。
俺が城咲に胸を焦がすに至ったキッカケは、言われの無い理由で複数人からボコられていたのを助けて貰ったこと。
まあその制裁を受けてた原因にがっちり城咲が食い込んでいるんだが、そんな事情にお構いなく、俺を庇うように立った城咲の背中に心臓がどうしよーもなくオーバーヒートしてしまったのだ。

 さて俺は現在進行形で親衛隊から頻繁に“制裁”を受けているのだが、初期と今とではかなり事情が違う。根元に城咲が関わっているのは変わらないが。
まず、親衛隊の制裁は、始め、城咲に対して行われていた。
親衛隊の崇拝対象がことごとく城咲に惚れてしまったのが原因だ。

  城咲は何故かボサボサのカツラに瓶底メガネの変装をしていて明らかに変人、そして人類みな兄弟という具合にフレンドリー炸裂な奴で、俺は隣の席になった時に親友宣言を受け、学内では大抵どこへ行くにも一緒と引き摺り回されるようになった。
俺への呼称も初めから「啓二」と下の名前だし、仲良しのステップを飛び越えてくる奴なのだ。
しかしそれは俺相手に限った事じゃなく、次々に仲良くなっていった城咲の同室者である不良とか、バスケ部のクラスメイトとかも同列に親友らしい。
そうして城咲の親友の輪はどんどん広がり、あっという間に生徒会役員全員と風紀委員長まで行動を共にするようになってしまう。
気付けば城咲を中心とした取り巻きは俺を除くとナゼか全員超級のイケメン揃い、かつ揃って城咲に恋愛感情を抱くという特典付き。
その頃になると流されるまま城咲と親友ごっこをしている俺は、集団でやや孤立しがちになった。
イケメン達は城咲との交流が第一だし、そいつらの濃いキャラクターと圧力を前にすると役職無しフツメンな俺は睨まれるのを恐れてなかなか口が開けないのだ。
城咲も親友と言い放った割には俺の存在に気付いていない事が多く(結構ひどい)、かといって離れようとすると猛スピードで追いかけてくるのでどうしようもない。
城咲の転入前の、かつての友人達も触らぬ神に祟りなしといった状態で取り付く島もなかった。

  次第にイケメン達は授業とか委員会活動をそっちのけに城咲にまとわりつくようになり、城咲もそれを咎めず、暇だなオマエラ〜!遊んでやんよ!なんて、むしろ助長してんじゃねーのって感じに見えた。
当然の流れで城咲は親衛隊からの憎悪を一身に受ける事になったが、周囲を固めるイケメン達がその悪意から城咲を守ったので本人への実害は遠巻きな陰口程度でそれ程でも無い。
親衛隊は崇拝するイケメン達に嫌われたく無いので、バレないようにと影でこそこそ付け狙ったが、意外にも異常に腕が立つ城咲に返り討ちという情けない結末で終わった。
  そうして、鬱憤を溜め込んだ親衛隊連中のサンドバッグとして選ばれたのが俺だったというわけだ。
俺が身勝手な城咲やイケメン達との付き合いにホトホト疲れてきた矢先の事だった。

  それからは悪夢のような日々で、荒らされた下駄箱や教室の机、上階から降ってくるバケツ・雑巾・机・椅子など陰湿な嫌がらせは数知らず。
また再三に渡る呼び出しもビビりつつ無視し続けていた俺だったが、ある時とうとう親衛隊一派の奴に拉致られてしまった。
連れて行かれた今は使われていない旧体育館の裏には、親衛隊の美少年達数名とその下につく荒事担当のいかつい奴らが待ち構えていた。
俺への制裁名目は『ぱっとしない外見のくせに城咲のツレというだけで高貴なる方々に近づいた罪』というんだから、本当にとばっちりだ。
イケメン共に劣情なんか抱いてないし、この時はむしろ、城咲とイケメン共々まとめて呪いたい気分だった。

「お前、生意気なんだよ!やっちゃって!」

小悪党のテンプレのような台詞を吐いたのは多分、会長の親衛隊隊長の吾妻先輩だったと思う。
一発腹を殴られて、打たれ弱い俺はさっそく涙を滲ませた。
それから二発、三発と重なる毎に俺の中で城咲への憎悪がめきめき成長していく。
あいつのせいでこんな目に。
親友とか抜かしたくせに、イケメンばっか相手しやがって。
何で俺が城咲の身代わりで殴られなきゃなんないんだよ。
城咲なんか大ッッ嫌いだ!!

目の前の男が腕を振り上げ、次の一打を加えようとしているのがハッキリと視界に入った。
顔に来る、
とっさに目をつぶり、備えるようにしゃがみこんだ。
だが、数秒しても衝撃は襲って来ない。
次いで、周囲にざわつきが広がって行くのに気付き、おそるおそる瞼を上げた。

「……え?」

目の前には男が一人、俺に背中を向けて立っていた。
仁王立ちの足の間からさっきの男が仰向けに倒れているのが見える。
地べたからその二本の足を辿って見上げると、肩をいからせた後ろ姿。
頭にはボサボサの黒髪が乗っかっていて、それだけで誰なのか合点がいった。
こんな変な頭なんか学園に一人しかいない。

「啓二に何してんだよ!!!」
「し、城咲!何でここに?!」
「親友のピンチくらい分かって当たり前だろ!!」

いや、俺のピンチ今までも結構あったけど?来なかったよな?
と思いながらも、ハッキリ言い放った城咲に不覚にも感動してしまった。
城咲は俺を振り返る事なく、いかつい連中に鉄槌を加えていく。
ケンカ慣れしてるんだろう、荒々しい姿で親衛隊の手先を肉塊へ変えていく城咲が血迷った俺にはヒーローに見えた。
痛いくらいに高鳴る心臓を抑えるように制服の胸元を握り締めつつ、乙女座りでへたり込んだままうっとりと城咲を眺める俺。
そしてそれを親衛隊の吾妻先輩が「…ハァ?!何こいつ」と見ていたそうだ。

城咲はごついのをあらかた再起不能にすると、くるりと俺に寄ってきた。
その時すでに俺は恋する乙女モードが発動してしまったようで、城咲の、

くるっ 
てくてく
にこっ 
「帰ろうぜ、啓二!」

という大技に盛大にキュン☆
強引に肩を掴まれ体を起こされると、あ・ヤダ城咲男らしい…なんて心臓はやばいし顔面の発熱っぷりもやばいし、ともすれば多少勃ってたかもってくらいだ……。

「ほーら!肩貸してやるよ!!」
「ん……」

照れすぎてマトモな返答もままなりません。
俺より少し背の低い城咲に体を預け、この瞬間よ永遠に続け…!と内心祈ってしまう程度には引き返せない所まで一気に来てしまっていた。
親衛隊の美少年達は城咲の暴れっぷりにそれ以上の追求は止め、黙って俺達を見送っていたのだが、その中で吾妻先輩だけが思案するような表情を浮かべていた。

そして後日、吾妻先輩から直々にある提案をされる。

『ねえ、橋谷って城咲の事好きなんでしょ?協力してあげようか』

親衛隊は城咲から生徒会役員や風紀委員を引き離したい、そして俺は城咲がそーいう意味で好き。
表面上は今まで通り“イケメン達にまとわり付く城咲の腰巾着な俺”のまま、利害を等しくする俺と親衛隊はこすく画策を始めたのだった。
まあ冒頭の通り全然上手くいってないんだけど。


終.





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あきゅろす。
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