[携帯モード] [URL送信]

sss
『祝』4
※平凡×男前


「先輩とまだ続いてんの?」
「まだって何だよ」

五限目を終えた小休憩中の一年B組。
佐々木ヒロは友人・山田の疑問に顔を顰めた。
山田の言う先輩とは、二週間前から佐々木と交際している、一学年上の加藤敦史の事である。
佐々木としては友人の一言は少し心外だった。

「続いてんだ…おめでとう…」
「ドーモ」
「おーい、佐々木!」

明後日の方向から呼ばれて見てみると、クラスメイトがうんざりと言った表情で手招きをしていた。
その隣、教室の出入口には佐々木の彼氏である加藤が立っている。
この級友は席が出入口に近いが為に、連日、カップルの橋渡しを強制されていたのだった。一のBの生徒は、素行不良の問題児として名を馳せる加藤にも、こうしてすっかり慣れ始めている。
佐々木は躊躇わず加藤の傍に寄る。

「先輩、どうしたんですか?」
「放課後、時間あるか………」
「大丈夫です」

返事を聞くとすぐさま、加藤は去ってしまった。
佐々木はその背中を見ていたが、六限目始業のチャイムが鳴ったので席へと戻った。
席に着くと、隣席の山田が呆れた顔で「デートかよ」と佐々木を小突く。

「言われると、そうだな。初デート」

六限目の間中、佐々木の口元がゆるゆると弧を描いているのを山田は見てしまった。



放課後。
ホームルームが終わるや否や、佐々木にお呼びが掛かる。
加藤が迎えに来ていた。

「先輩」
「行くぞ」

行き先を告げず加藤が佐々木を連れて行ったのは、駅前の喫茶店だった。古い個人経営のようで、チェーン店には無い染み付いた空気感がある。
カウンター席の端に並んで座れば、店主が加藤に話しかける。加藤は相変わらず愛想が無いが店主も気にしない様子からして馴染みなのだろう。佐々木も店主に一礼する。
加藤はアメリカンを二つ、まとめて注文した。店主はなぜかシフォンケーキを一つサービスしてくれた。

「美味しいです」
「…………そうか」

常と変わらず大した会話も無いのだが、佐々木は居心地の良さを感じていた。ぽつりと時々落とされる言葉が染み込んでいくようだ。
思えば加藤と付き合うまで利用した事が無かった屋上でも、加藤の友人に強制連行された旧校舎の溜まり場でも、気楽でいられたのは何故だろう。

「あ」

短く声を上げた佐々木は、問うような表情の加藤を見て、だが口を閉じた。
加藤も言及はしなかった。

喫茶店を出ると空が赤くなり始めていた。お互いの顔も朱に染まりつつある。
佐々木の背負った夕日に、加藤が眩しそうに目を細めた。
家が近所だと言う加藤に、佐々木はそれじゃあと背を向ける。
が、思い返して振り返った。

「俺も先輩の事、好きみたいです」

それだけ言うと、佐々木は走って改札に向かう。
残された加藤は日が落ちるまでその場を動けなかった。



終.



31/38ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!