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『祝』3
※平凡×男前


佐々木ヒロは割と読書好きだった。
通学の電車内で読む為に文庫本を持っているのだが、今日は凄く中途半端な所で目的地に着いてしまった。
一限目が体育だった事もあり、佐々木の頭はその事で一杯になっていた。
二限目の現代国語が始まっても続きを読みたくて気もそぞろ。
机の下で読もうかと思ったが、この現国の教師は嫌味たらしい中年女性で、佐々木は以前、授業中に読んでいた文庫本を没収された経験がある。
面倒なのは、その文庫本を受け取りに行くと三十分以上の説教をくらう事だ。

「先生、便所行って来ます」
「本来は休憩に行っておくべきものですよ」

文庫本をベルトに挟んだ状態で佐々木は教室を出た。
階段横の便所に入り、二つだけある個室のうち一番奥へ入る。
手前は和式便器だが、奥は洋式なので蓋をすれば座って長居出来るのだ。
教師には下痢便だったとでも言おうと、佐々木は文庫本を取り出して深く腰を降ろした。

そうして三分もしないうちに、誰かが便所に入ってきた。
授業中にも関わらず二人組が連れだっている。
談笑する声と用を足す水音が耳に入ったが、佐々木は読書を続けた。
ところがそう長くも続かなかった。

「お、ウンコに人入ってんぞ」
「日本語おかしいだろ……確かにウンコってんな」
「オイ出てこいやウンコ!!」

個室の鍵が回っている事に気付いた二人が、佐々木の目の前の扉をガンガンと叩き始めた。ほとんど本に集中していた佐々木は、その振動にビクッと肩を揺らした。
そうして聞こえてくる声を十秒程じっくり聞いて、気が進まないが、内鍵を開ける。
扉の向こうには二人組の、見た目にも分かりやすい問題児がいた。

「あの、何ですか」
「何もウンコもねーですよ。ウンコすんなウンコ」
「まあ出てこいやオイ」

学ランの胸元を掴まれ、佐々木は引きずり出された。
軽く壁にぶつけられ佐々木は眉根を寄せる。

「暇つぶしになってよーウンコ野郎」
「あ。あーコイツ、あれだ」
「んだよ?」
「加藤のあれ」
「ん??……ああ!あーマジ?!」

血気盛んな茶髪に少し温厚そうな金髪が二言三言呟いて、茶髪の構えた拳が下ろされた。その代わりに不躾な視線で観察される。
加藤、の名前に佐々木はひそかに反応した。

「連れていこう」
「そうしよー」



佐々木が連れて行かれたのは、今は使われていない旧校舎だった。
中に入り、茶髪と金髪が古びた教室の引き戸を開ける。

「加藤ちゃんこれ!」

茶髪は佐々木の背を押して先に入らせる。
中には三、四人、奥の方に佐々木の交際相手の加藤敦史が座っていた。
佐々木が加藤を確認した時、加藤の目は驚きに見開かれていた。
グイグイと押されるままに、佐々木は加藤の目の前に立った。
床に座っている加藤を見下ろすのは失礼かと少し考え、佐々木も同じく床に座る事にした。
加藤は目を見開いたまま、佐々木の動作を追う。それが何だか珍しい。

「彼氏、ウンコしてたぜー」

茶髪がそんな事を言って、周りがドッと沸く。
佐々木は読書していただけで濡れ衣だったのだが、黙って座っていた。
加藤も大して茶髪の話を聞いて無いようだった。

「ふーん。先輩サボりなんですね」
「…………あぁ」

加藤が居る事で平静になると、佐々木はまた本の続きが気になり始めた。幸い加藤は無口だったので、眼鏡を掛け直し、気兼ねせず文庫本を広げる。
随分時間が経ってしまったので、今から戻っても言い訳は通じないだろう。佐々木は現国は諦めようと決意した。

「何だァ、変なヤツだなー」
「だなあ」

反応の希薄さに茶髪金髪その他も次第に飽きて思い思いに過ごす。
そんな中、加藤は活字を追う佐々木の横顔を、終業の鐘が鳴るまで見続けていた。


終.



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