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『雷参』

玄関先で親父が言った。
「伊賀崎雷丸くんだ。ご挨拶しなさい、康隆」
満面の笑みで、俺に挨拶しろと。
親父の傍らには、背の高い男が、みるからにカチコチに緊張して立っているのだが、
「は?だれ?」
あいにくと知らん。
いがさき、らいまる
珍しい名前だな、とすこし好奇心。
だが知らん。
「やあね、今日からウチで一緒に暮らすのよ」
はずんだお袋の声は信じられん内容。
「聞いてねえよ」
何かと心の準備を大切にする俺は、突然の同居宣言にドン引き通り越して不機嫌。
感情を乗せたおれの抑揚無い不愉快声に、初対面の男の顔面は蒼白。
そもそもウチは2DKのマンションで、部屋分けも核家族3人でフルだ。
ろくに寝る場所もねえんだから、帰ってもらった方がコイツにとっても幸せだろう。
「ワハハ!そうか、言っていなかったか!」
「うふふ!やだ、パパったらおっちょこちょいなんだから!」
「そう言うママこそお茶目さんだな!ワハハ!」
「うふふ!」
事態は俺を置いてけぼりに花畑。
我が親ながらこの夫婦には、呆れ過ぎて溜め息も出ねえ。
そんな間にも刻々と時間は流れ、見れば、雷丸くんとやらの両目は溢れんばかりの水分が。
「おい、こいつ泣くぞ」
言った途端に、頬を一筋、涙が濡らしていた。
「あらあら!ごめんなさいね、雷丸くん。アナタは悪く無いのよ、ねえパパ」
「そうとも!君がウチで暮らすのは生まれる前から決まってたんだから」
のほほんと母。
意味不明な父。
俯く雷丸くん。
「生まれる前からって何だ」
尋ねると、
「雷丸くんはお前の家臣だぞ!目出度いじゃないか!ワハハ!」
「康隆は若様なのよ、うふふ!」
「頭大丈夫か」
…………ウチの親は揃って薬でもやってんのか?
全くもって理解及ばずだ。
黙りを決め込む雷丸くんに、何とか言えと視線をやると、俯き下がった前髪の隙間から覗いた瞳とぶつかった。
「アイツら何か言ってっけど、お前、意味わかるか?」
泣き顔に降参して、意識した柔らかい声音で優しめに聞く。
雷丸くんは俺を黙って見つめていたが、次第にふるふると震えだし、頬に熱が。
「顔赤いぞ」
「っ!!」
そんで、目の前から消えた。
「あれ………………」
「やん素敵!さすが直系は鮮やかね!」
「本当だな!いや、これで康隆の代も安泰だ!ワッショイショイ!」
「いやいや、あいつどこだよ」
異常事態に手放しでテンション上げてる馬鹿夫婦をよそに、俺は人並みに狐につままれた気分というのを味わった。
疑問に取り合わず、今日は鯛だ赤飯だと騒ぐ親。
しつこく尋ねる気も失せて静観に徹し始めると、目の前を白い物体が落下していった。
一拍遅れで床を見る。
足元に和紙が一枚あった。
拾うまでもなく見える、毛筆のデカい書体で
“らいまるはふつつかものですが、おつかえします、やすたかさま"
と、きしょい文章がオール平仮名で書かれていた。
和紙が落ちてきた天井を見ると、某国の蜘蛛男さながら“雷丸くん"が張り付いていて目ん玉飛び出しかけた。
一体どこで体を支えているのか分からない。
天井に張り付いたまま、雷丸くんが俺を見てまた頬を染める。
「雷丸くんってば、とってもシャイなのね、うふふ!」
「まさに大和撫子!」
「わけがわからん」
放心する俺にむけて、両親がさらなる破顔。
「雷丸くんちは代々我が家に仕えるお庭番の一族なのよ!」
「そうだ、ニンジャだぞ!ニンジャ!よかったなあ康隆!!」
「は?」


救急車は1台で足りるのか?





終.
ストーカー忍者。
康隆受けで参ります。




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あきゅろす。
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