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『ももたろう』


どうも、桃太郎です。

ご存知の通りぼかぁ犬サル雉の三匹の畜生共を連れて鬼ヶ島に行きましたよ。
巷じゃぼくが言い出したとか言われてますが、実際計画してたのは爺と婆です。
ぼくの育ての親、一見しがない老夫婦に見えますが、かたや元一番槍マニアのスパルタじじい、かたや女武者と恐れられた鬼ばばあ。
桃からさっくり生まれた瞬間から流れる川を間違えた事に気づきました。
世間一般より幾分成長の早いぼくは、二足歩行が可能になった時点から糞じじばばの容赦ない対鬼戦略を叩き込まれてきたんですわ。
元服の頃合いになると即座にきったねえ団子を渡されまして。
ぼくは食いませんでしたよ、あのばばあが作ったもんに碌な物が無いというのは経験上学んでます。
正体不明の団子をホイホイと食った三匹はやはり畜生です。
案の定異変をきたした三匹に同情心は湧きません。
『桃太郎様、だんごくだせえ!!』
四六時中団子団子とうるさい家来。
かつ揃って発情し始める始末です。

興奮剤と共に中毒性のある薬草が混入されていたんですね。
畜生なら持ち前の感度ビンビンな嗅覚で分かれ。
……と話が逸れてしまいましたが、まあそんなこんなで団子報酬に目の眩んだ畜生共はさながら狂戦士の如く鬼共を蹴散らしました。
実質ぼくは大将鬼に『金と捉えた姫を寄越せ』と言ったくらいで、戦闘は家来に任せきりでした。
薬浸けの家来の強さと言ったら半端ないですよ、パネエっすよ。
ものの半刻で勝負はつきました。
鬼共は白旗ぱたぱた、家来は相変わらず発情。
マトモなぼくと鬼の総大将でこっそり和睦を約束したんですわ。
そうこうしている間に捕らわれていた姫はさっさと鬼ヶ島から逃げおおせていたんでね、残ったのは金目のモンばかり。
それすらも、畜生とはいえ脳みそのシワが幾分多い猿のやつがほいほいと持ち去ってしまいましてね。
キジも奇声を発しながら飛び立ってしまうし、犬は大海原を犬掻きで泳いでいってしまうし。
傷ついた鬼とその大将とぼくだけ取り残されてしまいまして。
あろう事か、
『桃太郎様、アンタは凄い。あんな怪物達を従えていたなんて、よっぽどの器量持ちだ』
スリスリとすり寄ってきた敵の大将の頬は、元より赤いのがさらに上気し、恍惚とぼくを見つめてきたんですね。
あ、やべえ。
そう思った時には手遅れでした。人間代表との事で、鬼討伐出発の際に着せられた立派なおべべは剥ぎ取られ、鬼の、燃えるような色をした舌が体中に…………まあ省きますが、まんまと食われたんです。
後ろの方も。

生まれや育ちは特殊ですが、ぼくはやっぱり人間程度の身体能力だったようで、元来戦闘に長けた種族である鬼にとっては、ぼくの抵抗なんて子猫にひっかかれたようなもんだったんでしょう。
不本意な契りではありましたが、『桃太郎様、桃太郎様』と慕ってくる鬼に絆されてしまいました。
情けないお話です。
今も、珊瑚で作られた寝具の上に、かつての敵と寝ころんじゃあイチャついております。
風の便りで、あのジジババが雀と一悶着あったと聞きましたが、あんな軍隊のような故郷には帰る気もござんせん。
ぼくは今の時間を気に入っている。

『桃太郎様、好きだ』
『ぼくも好いているよ』

赤肌の鬼と笑い、口を合わせる。
こちらの方が、随分と人間らしい。




終.




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あきゅろす。
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