[携帯モード] [URL送信]

sss
『ジン』
※若干喘ぎます。



実家の倉から出てきたきったねえ醤油差しを擦ったらヒトが飛び出した。

「ねーねーご主人様あ」
「あ?」
なぁにが『ごしゅじんさまあ』だ。
甘ったるい声音とは裏腹に声の主(自称ランプの精、醤油差しから出てきたくせに)は浅黒い肌と逞しい腹筋を出し惜しまない、若い青年姿だ。
絵本で見るようないかにもな格好であぐらをかいているが、正直、畳にこの異人は似合わない。
「願い事、みっつまでだよおっ!なんかないの」
「あるよ」
@使い切れない大金
A不老の美女
B俺のイケメン化
「だめだあっ全部却下却下却下!!」
「なんで」
「いち、貨幣はそんな単純じゃありませえん」
「金塊でもいい」
「……だめ!にばんめは、ボクがいたら充分でショ?」
「嫁さんがほしい」
「ボクのおヨメサンにしたげるっ!ハイ、さんばんめは、必要ありませぇん!」
「イケメンになれりゃあ人生変わるんだが…」
「ご主人様は今のままがカワイくてイイよっ」
「…………」
にっこにこと笑いながら醤油差しの精がにじりよる。
座ったまま後ずさりしたが、あっという間もなくしなだれかかってきた。
耳をはまれる。
奴の舌が軟骨を辿って、首筋がぞわっときた。
「やめてくれ」
「それは、オネガイ?」
「……………」
三つしかない願い事の一つをこんなんで使ってもいいんだろうか。
勿体無い気もしたが、こいつが願いを叶える保障も無い。
いいや。
「そ」
「ワア!!ダメ!なしなし!やめた!ていうかシてない〜!!」
そーだ、叶えろ。
と言ってやりたかったんだが、醤油差しの精が何やら叫び始めた。
ぎゅうぎゅうと絞め落とされかねん力でしがみつかれ、耳元に爆音のわめき声。
図体でけえのに暴れんなよ………。
褐色の腰を力任せにつねり上げると、ぎゃあとひと鳴きして大人しくなった。
「おまえ何がしてえの」
「んん〜…ご主人様が死ぬまでイッショにいたいなあって」
「……おれの願い事は?」
「カナエたくなイっ」
すきすきだいすきいっしょにねよう?
なんてすげえ勢いで迫ってくる。
先程止めたはずの行為も再開され、あれよあれよとシャツの下から醤油差しの精の節くれだった指が侵入、わき腹から胸を手のひらがなで上げ、ほにゃららを触る。
「ちょ、お、おい、んむ」唇を割り、押し入る軟体。
焦燥感に醤油差しの精を見ると、莫迦みたいに美しい造形の顔が火照っていた。
自分で仕掛けてきたくせに、俺からは何も手をだしていないのに、なにを恍惚としているんだこいつは?
「んはあ、ごしゅじん、さまあ、」
こらイカン。
昔とった杵柄で、なぶりつく醤油差しの精を投げ飛ばした。




「ゴメンナサイ!」
「うわあっ!………たく」
のびた醤油差しの精は、目覚めるなりまた飛びついてきた。
よって重力に逆らえず、二人揃ってひっくり返る羽目にあった。
俺に馬乗りに跨って、醤油差しの精は「すきだヨ、すき」とまたも不埒な行為に及び始める。
「ん、ひ、ばか、やめろ」
「ご主人様、かぁわイイ…!」
「やっめ、ぁン」
こらイカン、
こらイカン。
と思いつつ、何十回と発情バカの相手をしながら月日は流れ、
「馬刺が食いてえ」
「ハイ、ご主人様!」
「ビール」
「ハイ、ご主人様!」
「風呂」
「イッショに入ろうネっ」
「やだ」
醤油差しの精とはまだ続いている。
命令は聞いたり、聞かなかったり。
願い事は叶えられない、が、まあ、いいか。




終.




16/38ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!