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第二の人生


12


男の視線に指図されるまま、その左隣に並び立つ。

正面の台座には黒い石造りの机があった。
その上に、辞書が裸足で逃げ出す程の恐るべき厚さの本が、どっしりと威光を。
両脇には一対のインク壷と、これまた対の羽ペンが、それぞれおれと男の前に置かれていた。
契約名とやらは、これに書くだろう。
台座の奥には十字架も逆十字も、神棚も無い。
ただ観賞用に楽しむにはいささかグロい植物が飾られているのみだ。


不審では無い程度に―参列者からは目を背けて―周囲を視線で伺うと、ほどなくして、漆黒空間に浮きまくりな、ソルトさんの灰色を見つけた。
台座よりも斜め奥、丁度吊された暗幕に隠れた、参列者の死角から眼鏡を光らせている。

か、監視されているような気がしてならない…。

おれが魔王さまの横に立って暫く、開始の合図も無いまま沈黙の時間が過ぎた。
以前の“お披露目会"が夢だったかと錯覚するほどに、場内は静かだ。
これは、もう、結婚式始まってん、の?


ふと、前を見据えていた男が、体ごとおれに向いた。
勉強会で学んだ項目の一つにピンときて、おれも男に向かい立つ。
この方向転換ですらも、見苦しくないようにと鞭打たれた記憶がある。



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