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小話
☆語られなかった物語、その一欠片。
※古代編ベースの捏造海表(というかセト表)です。
※セトが神官団に入って一年くらい後の話です。
※古代表くんの名前は“ユギ”と表記しています。
そしてセトの側仕えです。




















「セト様、お帰りなさいませ。」
「ああ。」



マントと冠を外してユギに渡す。



「お茶、お持ちしますね。」
「頼む。」



軽く頭を下げて部屋を去るユギを一瞥し、椅子に身体を預ける。


……疲れている。


神官としての務めが苦になった訳ではない。
王に仕え、国と民を守るという役目は誇らしいものだと思う。


……疲れているのは、周囲の者達の視線や言葉のせいだろう。


確かに自分は若輩者だ。
そんな私がファラオ直属の神官団、それも千年杖の所有者として選ばれたとなれば不満や中傷の言葉が出てくるのも当然だと予想はしていた。


それでも気分のいいものではない。


今の地位に見合うだけの努力はしてきたつもりだ。
努力もせずに不平不満を口にし、不躾な視線を向けてくる愚かな輩など相手をする価値もない。


だが、私とて人間だ。
所詮戯言だとわかっていても、悪意をぶつけられれば憤るし、認められないことを寂しいとも思う。


(こんなことでは駄目だ……)


神官の身でこんな弱音など吐いては、他の者に示しがつかない。



「お茶をお持ちしました。」



溜息を吐きそうになったその時、茶を持ったユギが部屋の入り口に立っていた。


「そうか……入れ。」
「失礼します。」


コトリと置かれた茶の受け皿には、小さな花が添えられていた。


道端や庭先などに咲くごくありふれた、だが生きるものの強さを感じさせるその花を、私は気に入っていた。


「ユギ、この花は?」
「え?…えっと……セト様がお疲れのご様子だったので、少しでも気持ちが和らげばと思いまして……」



「……そうか。」



ユギのこういった些細な気遣いは、沈みそうになる私の気分を浮上させてくれる。


「ユギ。」
「はい?」
「傍に。」
「!……はい。」


躊躇いがちに近づくユギの身体を、横抱きにして膝の上に乗せる。


「セ、ト、様……」
「少し、このままで。」


緩く抱き締めて、ユギの体温の心地好さに浸る。





「セト様。」
「ん?」


頬を撫でられるのが気持ち良いのか、嬉しそうな表情を浮かべるユギ。


「ボク、セト様にお仕えできて嬉しいです。」





「……何だ急に。」


「両親を亡くして途方にくれてたボクを側仕えとして引き取ってくださって、文字の読み書きも教えてくださって。」
「……」


黙ってユギの言葉を聴く。


「神官団に入られてからも、ずっと勉強を続けられていること、ボク知ってます。」


「……!」





このことをひけらかすつもりはない。
努力しても、結果が伴わなくては意味がないのだから。


だが、ユギは知っていてくれた。


自分を見てくれている者がいる。


それがユギだった、その事がこんなにも嬉しい。





「ファラオと国のためにとても頑張っているセト様のこと、ボク尊敬してます。」





「そんなセト様にお仕えできることが、ボクの誇りなんです。」





「……ユギ。」
「?セトさ……!」





その言葉を聞いて、沸き上がってきたのはユギへの『愛しさ』。


私に仕えることが嬉しいと、誇りだと言うこの少年が。


私に限り無い信頼を寄せてくれるユギが、どうしようもなく愛おしくて。


衝動のままに、ユギに口付けた。





「……っセト様////」
「ん?」
「とーとつ、すぎです////」


顔を朱に染めて恥ずかしがるユギの様子が可愛らしくて、頬が緩む。


「……セト様、ボクのことコドモだと思ってます?」
「何故だ?」
「だって、顔が笑ってますもの……」


少しむくれて、顔を逸らすユギの頬に口付ける。


「そう拗ねるな。……今夜は、一緒に寝るか?」
「ですから、コドモ扱いしないでください……」
「……大人扱い、するつもりなのだが?」





「…………!!?////」


言葉の意味を悟ったらしく、耳まで真っ赤に染めて固まってしまったユギを抱えて部屋を出る。


「あ、あのっ、セト様!?」
「何だ。」
「ボクっ、今日、いっぱい汗かいててっ!」
「なら先ずは湯殿だな。準備はできているのだろう?」
「え?あ、はい……って、そうじゃなくてっ、……ううぅ////」


(いつまで経っても慣れないのだな……)


これが初めて、というわけでもないのだが、慣れる様子のないユギに苦笑が漏れる。


(まあいい、これから徐々に慣れてもらおう。)


これからも、私はユギを傍に置き続けるし、ユギも私の傍にいてくれるだろう。





この少年を手放すことなど、私にはできるはずもないのだから。



END



後書き。


3333ターンを獲得された、さいとうめいこ様のリクエストで

“古代設定の海表甘々”

でした。

海表というよりは神官セト×捏造古代表くんといった仕上がりになりましたが……

実は裏設定として、

“ユギはアテムの双子の弟で、王家の内部分裂を避けるために一般庶民の子供のいない夫婦に引き取られた”

とかも考えたのですが、小説内の二人には必要ない設定なので描写してません。

ついでに年齢は

セト:22、3才
ユギ:14、5才

と設定してます。
(年齢とか身分とか、格差カプが大好物な管理人)

さいとうめいこ様のみお持ち帰り可です。
リクエストありがとうございました!

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