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小話
海馬瀬人の武藤遊戯に対する考察。
率直に言おう。
武藤遊戯はおかしなヤツだ。






オレの持つ雰囲気が、同年代の人間にとって近寄りがたいものだというのは自覚している。
最も、下らない人間の下らない言葉など聞きたくもないので、むしろ好都合だ。


だが、武藤遊戯は平然とオレに話しかける。


『おはよう、海馬くん。』
『この問題わかる?次当たるんだι』
『じゃあね、仕事がんばってね。』




内容は他愛のないものばかり。


なのだが、正直戸惑う。


何分オレにとって会話といえば、海馬ランドの運営や新プロジェクトの立ち上げ等、KCの業務に関することが大半だった。

義理の父・剛三郎によってある意味虐待ともとれる英才教育を幼い頃から施されていたこともあり、所謂雑談とは無縁な生活を送っていたせいもあるのだろう。






……笑顔で話しかけられるのは、悪くない。
それに、遊戯と話す(相槌を返す程度しかできないとしても)と気分が穏やかになった。







部下が立て続けにミスを犯した翌日などは、かなり不機嫌だ。
弟のモクバさえ声をかけるのを躊躇う様子を見せる。
そんな状態で登校すれば、クラスメートが近寄ることは皆無。
教師とて必要事項を告げれば即座にオレから離れる。


だが、遊戯は常と変わらない表情で話しかけてくる。
コイツは相当鈍感なのかとも思ったがそうでもないらしい。



「海馬くん……仕事で何かあった?」
「ああ。」
「(即答した……)そっか……あのさ。」
「何だ。」


「皆、ミスしたくてしてるんじゃないと思うよ?」


「……何?」
「あ、えっと、仕事なんだからミスが許されないのは当たり前なんだけど。」
「当然だ。」
「でも、皆が皆海馬くんみたいに完璧に全てこなせるってわけじゃないよね?」
「……」



社員全員がオレと同じ能力を持っているわけではないことくらい、オレもわかっている。
だが、イライラしてしまう。

この程度のミス位、自分達でなんとかしろ!
社長であるオレを引きずりだす程のことでもないだろう!

そう思うこともしばしばだ。
それに遊戯は何か勘違いをしている。
オレは完璧なのではなく、確認を徹底的に行なっているだけなのだ。
オレが数字一つでも間違えば、KCの業務全体に影響が出る。
だが、それは社員とて同じこと。
一つのセクションのミスは大なり小なり他のセクションにも影響を与える。
それを理解していない社員が存在することが許せないのだ。






「へー……」





饒舌なオレに、遊戯は少し戸惑った様子を見せた。
確かに、仕事と決闘(デュエル)以外でここまで言葉を発するのは自分でも珍しいと思う。


「やっぱり、海馬くんはすごいね。」
「……」


……何故そうなる。


オレの言ったことを理解しているのかいないのか、よくわからない返事に変に力が抜ける。


「……おい、遊戯。」
「ん?」
「お前は、」


ピリリリリッ


オレの携帯が鳴った。


「……わかった、すぐ車を寄越せ。」



「仕事?」
「ああ。」
「そっか、あんまり無理はしないでね。」
「……ああ。」


いつもそうだ。

仕事が入ったとわかると、遊戯はおそらくは励ましのつもりだろう言葉をかけてくる。



……我ながら単純なものだ。
それだけで気分が僅かなりとも浮上するのだから。


「じゃあな。」
「うん、またね。」






校門前に到着した車に乗り込み、KC本社ビルへと向かう。
オレの不機嫌が直っていることに運転手が驚いていた。
おかしなものだ。
昨日のミスを挽回すべく社員が奔走しているだろう現状は変わらない。
にも関わらず、遊戯と少し話をしただけでイライラが治まった。




……本当に、武藤遊戯はおかしなヤツだ。




(それとも……おかしいのはオレの方か?)



遊戯からすれば、オレに話しかけるのはあの凡骨連中に話しかけるのと大差ないことなのだろう。


(?……何故その事実に不快感を感じるのだ。)



あの連中にも、オレに話しかける時と同じ笑顔を見せているのだろうか。



(……どうしてオレはそれを“許せない”と思っている?)



遊戯にとってオレは凡骨連中と変わらない位置にいるのか。
いや、共に過ごした時間を考えればヤツらの方が上だろう。



(当然のことだ。だが、何故それがこんなにも悔しい?)



……







……オレは、武藤遊戯のことをどう思っている?







(……駄目だ、これ以上考えるな!)


キキィーッ


思考の渦に陥りそうになっていたオレの耳に、ブレーキ音が響いた。


「到着しました。……社長?いかがなさいました?」
「……いや……なんでもない。」






(……オレは、何を考えていた?)






……やめよう。


これ以上考えたら、オレは取り返しのつかない事実に直面しそうだ。


(何がどう取り返しがつかないのかはわからない、いや、わかってはならない。)


そう、今は目の前の仕事を片付けることが最優先。

こんなことで考えこんでいる場合ではないのだから。










それははじまりの合図。







でも、彼はまだ気付いていない。







それが、“恋”のはじまりを告げるものだとは。







この感情が恋なのだと、彼が気付くのはもう少し先のこと。







これが、初めての恋なのだと。



END



あとがき。


社長、恋心自覚前の小説でした。



相変わらず恥ずかしい話しか書けんのなオレ……


社長の初恋は表くんですよ絶対。(断言した!?)
オレがそう決めた!!


次は……表くんの恋心自覚前の小説書こうかな……




……あくまで予定ですよ?
期待しちゃだめですよ?



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