[携帯モード] [URL送信]

高銀(短編)
病み姫(梅雨の時期…)
 
あァ…もう梅雨の季節が来ちまったか。




〈病み姫〉




「銀ちゃん!最近元気ないアル」

「…そうか?銀さん元気100%だぞー」

「……」

神楽はそそくさと新八に歩み寄り、小腹をつついた。


「新八ぃ銀ちゃん空元気アル。きっと梅雨で天パがもっとモッサリしてるから元気ないアルか?」

「んーそうなのかな?僕にはいつものだらしなくて天パな銀さんに見えるけど…」

「これだから新八ネ!!その眼鏡は玩具アルか!?」


神楽の一方的な新八との喧嘩を静かに横目で見ながら俺は立ち上がった。



「このォッ!!…………あ、銀ちゃん何処行くネ?」

「散歩。苺牛乳切らしたから買ってくるわ」

ヒラヒラ手を振りながら、玄関で靴を履き玄関の扉を開ければシトシト雨が降っていた。



あー…
最悪。




傘を持ち、新八と神楽に「行ってきます」と伝え雨のなか歩き出した。









俺は雨が大嫌いだ

天パはモッサリするし、
ジメジメだし、
カビの繁殖は半端ねーし…





それに昔を思い出す。


雨の中
戦って戦って戦って…
上を見れば鉛色の曇天の空。
下には真っ赤な血と肉片の山。

雨で流れ行く仲間の血。


視界も足場も悪くて雨の……梅雨の時期は多くの仲間が亡くなった…

今でも鮮明に覚えているあの光景。







「っ…うっ…やっぱ、まだ…ダメだな」

俯きながら自然に流れ出る涙を袖で拭いながらかぶき町を宛もなく歩き続けた。


なんとなく路地裏に入ればヤクザと肩をぶつけた。


「あぁ!?なんだ兄ちゃん」

「あーあ。兄貴の腕が折れちまったぞ、こりゃ。慰謝料出せやおらァ」


チンピラに腕を掴まれ、その拍子に逆の手で木刀を掴んだ。


「俺は今虫の居所が悪いんだよね。ちょっとストレス発散させてよ。大丈夫、八割くらい生かせてあげるから」

「何言ってやがる!?ほら出せ!!」



ヤクザ達は俺の腕を掴んだまま他の奴が拳を振り上げた。

その瞬間…

俺は殴りかかるやつを思い切り木刀で斬った。

続いて腕を掴んでる奴も斬りつけ、もう一人いた見張りも逃がさず斬りつけた。

倒れても腹を蹴り、顔面も原形を留めないくらい殴った。


あぁ…懐かしい
この感覚……


鼻に付く鉄の臭い
骨が軋む音
雨と共に流れる血と肉の感触

砕ける内蔵



あぁ…懐かしい…俺は昔たくさん殺した。
この時期はたくさん死んだ。





「あはっ、あはは……あははははは!!!」


笑い声も殴る手も止まらない。
自分だって痛いはずなのに、中毒にでもなったかのように痛みすら感じない。




「おい、テメェそいつを殺す気か?白夜叉の血が騒いじまったってか?」

「……っ…おま、お前」


不意に近くから声が聞こえた。
ピタリと止んだ笑い声。


声の主が近づき俺の血に濡れた手を包み込むように握り締めた。


「まだ死んでねェなコイツ。テメェの血で銀時の手を汚すんじゃねェよ。身の程を弁えな」

「違っ…俺が…コイツを……」



声の主、高杉は傘もささずに血で汚れた俺を抱きしめた。
優しくて強い腕で…



「こんなに弱っちまって馬鹿か」

「……ひっぐ…う…馬鹿じゃねー…」

「泣くな。テメェを泣かすためにわざわざ江戸に来たんじゃねェさ。梅雨は嫌ェなんだよなァ銀時」


雨で濡れた高杉の髪から雫が垂れた。

いや、これは俺の涙か。




昔から梅雨の時期は高杉が一緒にいてくれた。

どんな時も…





「自分だけで何でも背負い過ぎるな。死んだ仲間、殺した天人はテメェのせいじゃねェ。だから……」


高杉の言いたいことはわかる。

でも俺は…


「罪を背負って生きるしか…ないんだ。……白夜叉の罪滅ぼしなんだ…俺はたくさん殺した…何百も何千も!!!許される訳ないだろ!!」

「だったら!!」



高杉は俺から離れ、両手で俺の顔を挟んみ叫んだ。綺麗な高杉の深緑の瞳は怒りでも、悲しみでもなく…ゆらゆらと揺れていた。





「だったら…俺も同じ罪を背負う。半分だけでもいい。前から言ってんだろうが!!背負わせろ…馬鹿銀時」


「た…高杉」



高杉は俺の頭を撫でながら近くに落ちていた高杉の傘をさしてくれた。



「銀時がいたおかげで、俺も坂本もヅラの野郎も残念だが死なずに生きてる。テメェが光を見失わなかったからだ」


高杉の言葉は俺を許してくれてるように聞こえた。

本当に?
本当にいいのか?


子どもに言い聞かすような声音で優しく言われると泣きたくなくても涙が溢れた。


「高杉……ありがとう」

「テメェみてーな馬鹿が病んで死なれちゃァ困る。悔やむな。泣くな。感謝たれるこたァ俺はしてねェぜ」



高杉の優しさに俺は頭が上がらない。



高杉は立ち上がって俺に手を差し伸べた。


「俺が風邪引く。早く立て銀時」


「ははは…高杉が風邪引かれたら万斉君にまた子ちゃんに殺されるわ」

「何言ってやがる」



差し出された手に素直に手を置けば無理矢理引っ張られて腰に腕を回された。

そして耳元で呟かれた。



「俺がテメェを殺してやらァ」


高杉らしいっちゃーらしい。

俺はクスリと笑って

「高杉に殺されるならいい…」




雨は小降りになり、俺達は雨宿り場所を探して歩き出した。






完,

[*back][go#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!