6.
「ホント?」
「ええ。扉を開けて見ればわかります。…多分今頃、固まってると思いますけど」
少し笑いを含んだあいつの声に、額の血管がぴきりと浮かび上がった。
でもあいつの言葉通り、俺は今まさに固まっていた。
――ま、まさか待ち人って俺だったのかぁッ!?いやでも、そんなはずは…ってまずい!先生こっち来る!
先生の革靴の音が、だんだんとこちらに近づいてきて……
がちゃり、と扉が開いた。
「まぁ!奏夜くん!いつからここに来てたの?」
「え、あ、まぁ…さっきから」
驚いた先生の問いかけに、しどろもどろで嘘を吐く。
そこにびしりとあいつの声が。
「俺が最初演奏し始めたときからいましたよ、そこにずっと」
「………!」
「そうなの?どうして入って来なかったの、遅くて心配したじゃない…」
「す、すみません…入れそうになかった雰囲気だったので」
それに先生、あんた心配してないでしょ。
いかにも驚きと心配が交じったかのように聞こえるリアクションは、生でみると呆れてものも言えないぐらいだ。
(もっと中条くんの演奏を聞いていたかった!)
(このまま来なくても良かったのに)
(どうして来たのよ、こんなに早く!)
「………」
滲み出る憎悪が、俺を包んでいく。
でも仕方ない。
40は過ぎてるおばさんでも、音楽に人生をかけた人だ。
優秀で容姿端麗な生徒の演奏を少しでも長く独り占めしておきたいと思うのは、本能だろう。
…多分俺も、心の隅ではそんな思いがある。
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