5.
――ポロン、ポロン…
またも聞こえてくる音は、さっきとは違う曲だ。
優しい音色に耳を傾けながらも、俺はどうしようか悩む。
待ち人が俺じゃないなら、俺はいつまで教室の外にいなければならないのだろう。
いっそ音楽室でも行って、一人で弾いているか?
でも、音楽室はなんだか特別な感じがして……あいつ個人の為に作られた部屋、みたいな。
だから、俺は入ってはいけないような気がする。
もちろん、実際にそんな事はないのだけれど。
「――……?」
唐突に、音が消えた。
というより、演奏が止まったという方が正しいか。
一瞬自分の耳の調子が悪くなったのかと思ったけれど、違うようだ。
「…どうしたの?中条くん…」
演奏をいきなり止めるなんて、音楽教師としては良くないと思うだろう。
その証拠に、先生の声には少しがっかりしたような、咎めるような声が混じっていた。
「……いえ、すみません。でも、来たみたいですので」
「え?」
思わず聞き返した先生に、あいつは俺のいる扉を指差して言った。
「――もう、来てるみたいですよ」
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