4.
ゆったりと流れる音のリズムに、自然と体が反応してしまう。
(ここはためて…だんだん早く…)
目を閉じて頭の中を満たす音符を感じる。
八日ぶりだけど、いつも聞いてきた旋律には体が馴染みきっていた。
その「音」を聞きながら、時々思ってしまう。
――悔しいけど、上手い。
絶対に俺には弾けない、って思ってしまうような弾き方をするんだ、あいつは。
――ポロン……、
曲の一番最後の音が、静かな空間に優しく響いた。
余韻の残し方も――…いつもと、同じ。
…いつも聞いてたんだ。
中途半端な、あいつのファンよりずっと。
俺にだけわかる、あいつの「音」。
なんだかそれが、とても嬉しくて。
自分でも気付かない内に、顔には笑いが滲んでいた。
「――良い演奏だわ。有難うね、中条くん」
「いえ。…それより、まだでしょうか?」
さっきより教室に近づいたせいか、今度は話し声がはっきり聞こえる。
まだでしょうか、って…何を待っているんだ、あいつは。
「そういえば…いつもは掃除が終わったらすぐに来るのに。今日は遅いわね…何してるのかしら」
「俺が呼んできましょうか?」
「あら、良いわよ。多分もうすぐで来ると思うし…」
それよりもう一曲何か弾いてくれない?と、年に似合わず先生が可愛らしくあいつに頼む。
それに「良いですよ」なんて優等生ぶって答えたあいつは、またピアノに向かう。
ってゆーか…さっきの会話からだと、俺……
待たれてるんじゃ。
「…いやいや」
多分それはない。
先生の言葉からして俺の可能性がかなり高い気もするけど、絶対に俺じゃない。
だって、俺の事をあいつが待つ理由がないから。
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