3.
もしかして、昼休みに何か話していたのはこれの事だったのかもしれない。
先生の事だから、あいつの演奏を聞きたいがために自分の教室へ呼び出したんだろう。
だから、演奏が終わればあいつは即興にこの教室から出ていってくれるはず………だと思いたい。
まさか、俺の演奏を聞くなんて事は言いださないよな…?
扉にもっと近づいて、中の様子を探る。
ピアノに誰かが座っているのはわかるが、ここからは顔が見えない。
…でも分かる。ずっと聞いてきた。この旋律は、あいつだ。
ピアノより少し離れた机に、いつものように先生が座っている――が、その顔はいつもと違った。
ほんわかしていて、流れてくる曲に聞きほれるような感じ。うっとりと、目を閉じている。
あいつの演奏は気持ちが良くて、それに惚れる人も多い。
影ではファンクラブとやらがあるとかないとか。
………俺も、その演奏に惚れた数多くの中の一人なわけだけど。
ピアノから聞こえてくる音が、ゆっくりと俺の頭を満たしていく。
八日ぶりのあいつの「音」は、とても懐かしく感じられた。
あいつはライバルで、俺にとっては疎むべき存在だ。
――…だけど、あいつの「音」だけは別で。
あいつは嫌いだけど、あいつの奏でる旋律は嫌いじゃない。
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