6.
「悲愴」第二楽章は四年前あたりに一度弾いた事はあるから、大体は覚えている。
だけど最後の1ページがなんとなくあやふやで……
「……え」
パラリ、とページをめくった音がやけに頭に大きく響く。
反対に、隣で必死にパラパラやっている音が、だんだん遠ざかっていく。
徐々に顔から血が引いていくのがリアルにわかった。
全身が、冷や汗に包まれる。
茫然と楽譜を見つめたまま、俺は息を呑んで呟いた。
「…なんで…っ」
一番肝心な最後の1ページがないんだぁあああッ!!
そう、楽譜は最後から二番目のページを最後に、ぷっつりと白紙になっていた。
いくらページを捲っても、最後の譜面は見つからない。
焦りに焦ったところで制限時間終了となり、ピアノの前に座らされた。
そして俺は最後の1ページだけ全く弾けずに、あいつは全て完璧に完奏して、「中条選手、奏多くんの兄貴権獲得――!」と誰かもわからないようなナレーターの声が頭に響いたところで、……
夢は覚めた。
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