5.
「奏夜、今からゲームをしよう」
目の前であいつは、俺に向かっていきなり提案をしてきた。
「は…?ゲーム?」
「そう。悲愴第二楽章を今から三分で暗記できた方が勝ち。で、勝った方はこれからの奏多の兄貴になる権利が渡される」
「は!?はぁあ!?」
なんだって!?
奏多の兄貴権!?
「よし、じゃあ手元にある楽譜の表紙を、よーいスタートの合図で開いて、中を暗記していく事。
制限時間の三分が過ぎたら、ピアノで弾く。できるだけ長く覚えられていた方が勝ち。わかったな?じゃあ、よーい……」
ちょ、ちょっと待ってくれぇえええ!!!!
「スタート!!」
嬉しそうなあいつの声が響くとともに、俺の手元に楽譜が現れた。
それはまぎれもなくベートーヴェン作曲の「悲愴」第二楽章で…
とにかく、始まってしまったからには負けられない。
なんたって、奏多の命がかかっているんだ!!(違う)
どうしてあいつのテンションがいつもと違うんだとか、どうして楽譜がいきなり現れるんだとか、どうしてこんな奴と奏多の兄貴権を取り合わなければいけないんだとか、色々疑問はあるわけだけど。
とにかく俺はページをめくって、楽譜を懸命に覚えた。
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