1.
バタン!!という音を響かせて家のドアを閉めた。
家の中は、誰もいないかのように静まりかえっている。聞こえるのは、俺の荒い息を吐く音だけ。
「…奏多(かなた)?」
誰もいないかのようだけど、絶対に一人はいる。俺の弟の、奏多が。
「……?」
でも、名前を呼んでも返事が一向に返って来ない。
どうしてだろう。いつもは犬のごとく走ってくるのに………
「わっ!!」
「っ、わああああぁああッ!?!?」
いきなり後ろから首に手が絡みついてきて、俺を後ろに引っ張った。
そのまま俺は体制を崩して、後ろにいる奴に抱えられる。
「…は、びっくりしたぁ…って、奏多!?」
「おかえり、兄貴ー♪」
「おかえり、じゃねぇよ…」
こっちは寿命縮む程焦ったっつの!
今だ首に巻きついている腕をぱしぱしと叩くと、体勢を元に戻されてから、手がするりと首から退いていった。
「夕飯出来てるよー」
「あぁ、有難う」
「えへへ、俺偉いー?」
「偉い偉い」
「イイコイイコしてー」
「イイコイイコー…って、するかバカ!」
もう奏多は中三になっている。
身長ももう少しで俺を抜きそうだし、あと約半年もすれば高校生になる。
なのに、今だに甘えん坊なのは変わらないんだ…。
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