[携帯モード] [URL送信]
とある夜更けの惚気(ろち正)




秋が深まり夏の暑さは遠ざかり冬の寒さが近づく夜。
寝ていた二つの影の片方がもぞりと起き上がった。
暑さに油断してか未だ二人を包む布団は夏用で、夜更けの急な冷え込みに耐え切れず起きたというところだろう。
半袖のさらされた腕を軽く擦りながら少年は寝ぼけたようにあたりを見渡した。
見れば隣の少年に布団が殆ど奪われている。
冷え込みに無意識に布団を引き寄せたのだろう。
それを見ると少しむくれたように頬を膨らませた少年は布団の端を引っ張った。
しかし抱え込むように布団にくるまっているため引きはがせそうにはない。
初めから奪い返す気はないのだろう。
すぐに手を離すと他に布団はないかと見渡すがそれらしいものは見当たらない。
肩を落とし諦めてそのまま寝てしまおうと少年が思い視線を布団で眠る少年に戻した時、ぎくりと動きが止まった。
「まさおみ…?」
「千景さ…うわあ!」
寝ぼけているのか眠たそうな虚ろな瞳と目が合う。
起こしてしまったのかと正臣は慌てて口を開くがそれは言葉になる前に寝ていた少年ー…六条千景の手によって妨げされる。
腕を引かれバランスを崩した正臣は倒れるように千景に布団の中へ引きずり込まれる。
そして冷えた体を温める様にぎゅうっと抱きしめた。
包まれるような温かさに抗議の声も忘れて正臣は甘えるようにそっと寄り添う。
「まさおみ冷てぇ」
「千景さんが布団を独り占めにすっから…」
「わりぃ」
会話は出来ているが千景が起きているというのは怪しい。
現に瞼は閉じられたままで正臣を抱きしめ今にも夢の世界へ旅立とうという雰囲気だ。
だからといって正臣も彼を起こすつもりはない。
まだ真夜中だ。寝ているならそれでいい。
温もりを得た正臣もまた起床時間までは時間がある、もう一眠りするつもりなのだ。
ならば一緒にこのまま寝る方がいい。
千景に擦り寄ると正臣はそっと目を閉じた。
千景の温もりに抱かれて眠る夢はきっと幸せな夢なんだろうなと思いながら…。

思いながら千景の寝言を耳にするまでは。

「ん…ハニー…好き…愛してる…」
「!?」

完全に夢の世界に旅立った千景の寝言を聞いて正臣は思わず起き上がって千景を見た。
漫画やドラマなどで寝言で浮気が発覚する場面が描かれていることがあるがよもや自分がその場面に出くわそうとは。
確かに千景は女好きで愛を呼吸のように囁く。
起きている千景からよく聞く言葉にしても、自分の中で折り合いがついているとしても、自分を愛していると知っていても寝言までそうだと面白くない。
再び不機嫌顔を作ると正臣は千景の頬を軽く引っ張った。
「夢の中ぐらい…俺のことだけ考えろよ…」
我ながら醜い独占欲と嫉妬だと思いながら正臣は千景に背を向けて眠りに就いた。




            ♂♀



夜が明け、朝。目覚まし時計が鳴り響き正臣と千景はほぼ同時に起きた。
一緒に朝の支度をしながら正臣は何気なく千景に問う。
「昨日、どんな夢見てたんだ?結構楽しそうな顔だったけど夢の中でもナンパ?」
「ん…?あぁ…」
軽口を叩きながら笑う正臣を千景は一瞬何のことだと首を傾げていたが見ていた夢を思い出したんだろう。
正臣の腕を引き、抱き寄せてその額にキスを贈ってから満面の笑みで答えた。
「もちろんハニーの夢さ!夢の中でも正臣は可愛かった」
キスに驚き内容に驚き、正臣はキョトンを千景を見つめる。
まさか自分の夢をみているとは思わなかった。
あの寝言…ハニーというのは自分…?
自分に知らず嫉妬していたことになり正臣はどう返していいかわからず千景を見つめたまま固まるしかない。
隙ありと言わんばかりに千景は無防備な正臣の唇を奪って悪戯気に笑った。

「もしかして女の子の夢だと思った?残念、俺は四六時中正臣のことしか考えてない」

そう言い残すと上機嫌のまま千景は朝食を作るためにキッチンへと向かっていった。
残された正臣は顔を真っ赤にしながらその場にしゃがみ込み千景の愛の大きさと深さに何とも言えない感情を持て余すのだった。



.


あきゅろす。
無料HPエムペ!