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正臣くんがネコになりました3


猫になった為か人より敏感になった聴覚が拾う音。
意識をそちらに向ければそれは呼ぶ声だと気付き、その言葉、声音に聞き覚えを感じれば歩き出そうとしていた足が止まる。
更によく耳を澄ませればその声は『正臣』と言の葉を象っていた。
誰の声か未だ分からないが高い声と『正臣』という俺の呼び方から臨也さんじゃないことだけは分かった。
それだけ分ければこの際誰でもいい。あの悪魔でなければいい。
俺は振り向き声のしたの方へ歩き始めた。

言葉まで聞き取れたのだ。目当ての人物はすぐに見つかった。
何かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡す少女。その視線は明らかに人を探すものではなく地面の方を見ていたり茂みを覗き込んだりしており、言葉も相まって『猫の俺』を探していることが遠目にも伺えた。
つまり、少女ーー沙樹は俺が猫になったことを知っているということだ。
それはその事実を知るものから知らされたということで、それは勿論臨也さんから聞いたのだろう。
あれから連れ戻すように言われたのだろうか。
それを考えると沙樹に見つけてもらっても臨也さんのところに連れ戻されかねない。
逃げてしまおうかと考えた矢先、沙樹の探すような呼び掛けが見付けたという声に変わった。
見れば真っ直ぐ向かってくる沙樹は無事でよかったと言うように表情には安堵が浮かんでいる。そんな顔を見て逃げ出せるはずもなく、俺は沙樹に向かって駆け出した。

「良かった。無事だったんだね。臨也さんから聞いたよ、正臣猫になっちゃったんだね。可愛い」

優しく抱き上げられ頭を撫でる。
やはり予め俺のことを臨也さんから聞いていたらしい沙樹は何度も心配したんだよと聞かされた。沙樹の心配ように例えこの後臨也さんの元に連れていかれたとしても逃げ出せようもない。もしかしたら臨也さんはこれが狙いで沙樹に俺を探させたのかもしれない。元に戻ったら一発殴ろう、そうしよう。
密やかにそう決めていると沙樹が歩き出した。

「ほら、臨也さんのところへ戻ろう?臨也さんも心配していたよ」
「あいつが心配してるわけないだろ、絶対面白がっているって」
「もう、臨也さんはそこまで意地悪じゃないよ」
「沙樹は相変わらず盲目……ってえ?」

沙樹の言葉に思わず分からないと分かってても反論してしまう。しかしそのあと会話は恙無く交わされて俺は思わず目を見張った。
沙樹は何が可笑しいのか分からないらしく途中で言葉を切った俺を不思議そうに見下ろしている。
もしかしてたまたま。沙樹が俺がいうであろう言葉を予想して話していたのだろうか。

「沙樹」
「なに?」
「………………もしかして俺の話してることわかるのか?」
「? 確かに猫が話してるのは変な感じがするけど、正臣の言葉ちゃんと分かるよ?」

試しに話しかけてみたら俺の質問を理解した上での返答が返ってきた。つまり、沙樹には俺の話す言葉が分かるらしい。でも確か目覚めた時に俺が文句を言っても臨也さんは『何を言っているか分からない』と話していたではないか?
これは元に戻る予兆なのか。それとも別のなにかなのか。
ともかく言葉が通じるのは有難い。
これで無理矢理臨也さんのところへ連行されるのだけは免れる。
いくら臨也さんの言うことでも俺が嫌がっていると分ければ沙樹も無理矢理には連れていこうとはしまい。

「なぁ沙樹。臨也さんのところへいくのか?」
「そうだよ。正臣は行きたくないの?」
「行きたくない。そもそも誰のせいでこんなことになったと思ってるんだよ、戻るまであいつの玩具になるのは嫌だからな」
「そっか。それじゃあしょうがない」

やはり臨也さんのところへいくつもりだったらしい。
しかし俺の言葉を聞いて沙樹の歩みが止まった。
悩む素振りをして沙樹は俺を見て優しく微笑んだ。

「何処へ行こっか?」








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