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正臣くんがネコになりました


真夜中に突然臨也さんに呼び出された俺は文句を言いつつ仕事だと割り切り、夜勤手当てと時間外手当てをふんだんにぼったくろうと心に決めつつ臨也さんの事務所を訪れた。
出迎えた臨也さんは呼び出しに応じた俺を労るように一杯の珈琲を淹れてくれた。
ソファーに腰を掛け仕事の指示を待つ俺の目の前に。仕事の指示も呼び出した理由も何も告げずに「お疲れ様」とただその一言を添えただけで。
今まで散々な目に遭った俺があの折原臨也が差し出したモノを無警戒に口にするはずもなく、裏しかないであろう珈琲に手を付けずにただ待つ。

「あれ、珈琲嫌いだった?」
「いえ、アンタの出したモノを口に入れたくないだけです」
「そう言うのは本人を目の前にして言うことじゃないんじゃない」
「アンタに何気を使う必要があるんですか。さっさと呼び出した理由を話しやがれ」
「それを飲んだらね。あと勝手に帰ったら今月の給料カットだから」

どう足掻いてもこの珈琲を飲まないことには話が進みそうにないらしい。
それはつまりこの珈琲に何かある。今までの経験がそれを語るがこのまま帰れない、もしくは帰ったら給料カット。
珈琲を飲まず臨也さんが痺れを切らすのを待つと言うのも手の一つだがこんなやつと一夜を共にするのも嫌だ。何よりあの男がすぐに前言を撤回するはずがない。

「じゃあ何かあったら今月の給料倍額だからな!」

意を決して珈琲を口に流し込んだ。味におかしい点はない。しかし喉を通りすぎたあたりで視界が暗転。
そらみたことか。臨也さんの差し出すものにまともなものなんて宝くじ一等が当たる以上に確率が低いに決まっている。




         ♂♀




何かを盛られた俺が目を覚ますとそこは何もかわりない臨也さんの事務所だった。
しかしそのわりには距離感物の大小がおかしい。いつもより高い天井に広いソファー。極めつけはこちらを覗き込む臨也さんの大きな顔。
まるで世界が俺を残して大きくなったようで、しかしそれは間違いであった。

「へぇこんな効果があるんだ。ねぇ正臣くん。君が今どうなっているかわかる?」

そういって目の前に置かれた鏡に映るのは姿を変えた自分。
全身を覆う茶色い毛並み。ピンっと張る髭に高い位置にある三角の耳。するりと細長い尻尾も見えて、その姿はどこをどう見ても猫。cat。にゃん。
どうやら世界が大きくなったどころか、俺が小さくなって、あまつさえ猫になっていた。
原因は言わずもがな、目の前にいる男だ。やはりあの珈琲に何か仕込んでいたんだ。
だから臨也さんの出すモノには録なものがないんだ!!つかどうやったら戻るんだよ、と抗議するが聞こえる俺の声はにゃーにゃーという猫の鳴き声。

「あはは。何言っているか分かんないや」

愉しそうな笑みを浮かべ、臨也さんは俺に手を伸ばす。
触るなとその手を引っ掻き俺はこのままじゃどうしようもないと、このまま臨也さんに飼われるのは嫌だと逃げ出すことにした。
しかしここは部屋で俺は猫。玄関のドアに阻まれ何処にも行くことは叶わなかった。
玄関で俺を追い詰めた臨也さんは屈み、猫になった俺を抱き上げた。

「どうすれば戻るかとかは知らないけど、この手のものは《愛する人の口付け》って決まってるし試してみようか」

そう言って迫る臨也さんの顔。
間違いなくこの男は猫とキスをしようとしている。なんとか逃げ出せないかともがくが悲しきかな。猫の力では人間の拘束は解けそうにない。
カウンターで噛みついてやろうと鼻を狙っていると背後のドアが開いた。
突然の来訪者。
一瞬臨也さんの気が逸れた隙をついて俺はその魔の手から逃れ開いたドアから身を踊らせ外へと逃亡を果たす。

背後から「貴方に獣姦の趣味があったことはどうでもいいけれど私の預かり知らぬところでやりなさい」と波江さんの声が聞こえ、ざまぁみろと吐き捨てて俺は臨也さんから逃げ出した。


さて、これからどうしようか。何処へ行こうか。









あきゅろす。
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