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相容れぬモノ達(静正)
※アニクジの聖職者静雄さんと吸血鬼臨也にやられ景品画像だけの情報で正臣はどんな立ち位置なんだろうかと暴走した結果の、聖職者静雄×臨也の使い魔正臣





   

目の前で力なく倒れていく女。
自分へと向かってくるソレを受け止めると正臣は今しがた食事を終えた主を見つめた。
黒地のマントを羽織り、背には蝙蝠の羽根。食事を終えたばかりだからなのか普段は黒い瞳は紅く染まり、口端に付いた赤を舌で拭うその姿は今巷を騒がせている犯罪者で快楽者。そして異常にして怪奇、人々の噂に上る吸血鬼そのものだった。
しかしこの男は絵空事にある吸血鬼よりも厄介なことを正臣は知っている。
空想の彼らは十字架に弱い、ニンニクが苦手、朝日を浴びると灰になるなど弱点を持っている。だが正臣が知る中でこの吸血鬼に弱点らしい弱点は見当たらない。
限りなく人間に近く、限りなく化け物に近く、正真正銘の吸血鬼。
厄介なやつだと己の主まじきことを考えながら腕の中で気を失う女を見た。
首筋には赤い点のような傷がある以外寝ているように目を閉じている。しかしやはりというか些か顔色はよろしくはない。
人の形をした鬼に血を吸われた後ならば当たり前と言えば当たり前でいつも通りの光景に嫌気がさすという様に正臣は小さく息を吐いた。
「臨也さん、この人」
「あぁ、いつも通りの処理でいいよ」
まるでいらなくなったものを捨てるかのように感情の見えない受け答え。
自分の主である吸血鬼、臨也と名乗る男に「わかりました」とだけ伝えると華奢な身体からは想像も出来ない力強さで自分と同じ身長の女性を抱き上げると歩き始めた。
それを見届けるように臨也は自分の体を霧状にして風に紛れるようにそのまま去って行く。
姿は見えないが気配で臨也が去って行ったことを感じ取ると先ほどまでほとんど感情の起伏がなかった正臣の表情が一転して嫌悪と憎悪に塗りつぶされた。
言葉には出さないが臨也には思うところがあるらしく雰囲気は刺々しい。
「絶対自由になってやる」

紀田正臣も人ではない。
俗に言う使い魔という魔物だ。元はただの猫だったのだが臨也によって力を与えられた。
普段は貴族の屋敷の一介の使用人として暮らしているが主である臨也に絶対服従で今宵のように食事の準備後片付けを命じられることもしばしば。
その度にこうして悪態をついて反抗的な態度を本人のいないところでとっている。
臨也に反抗的な態度をとり、咎められるから隠れて悪態をついているわけではない。過去にこうした態度を臨也本人の目の前でとったことがあるがその時の臨也の見下し嘲り愉しむ反応が屈辱的なもので有言不実行な自分が情けなくなるためそれ以来本人の目の前では口にしない。
口に出してしまえば結局は同じなのだが正臣はあえて悪態をつき続けていた。その中にある決意を忘れないようにするかのように。

そうして今宵も主への悪態をつきつつ気を失う女性を家まで送り届けようと人気のない道を選んで歩いていたときのことだった。
まるでこの道を利用することが分かっていたかのように道路に立ちはだかる一つの影。
藍色のロングコートを夜風に靡かせ、その手には背丈よりも長い十字架。
金髪で浮かべる笑みは猛獣を連想させる凛々しい青年が正臣の行く手を阻むように立っていた。
その姿を目視すると正臣の表情が一気に苦々しいものへと変わる。
平和島静雄。
この街の教会に住む祓魔師。近年跋扈する吸血鬼ー折原臨也を退治するために派遣された人物だ。
勿論相手側は吸血鬼=臨也だということは知らない。
つまりは、
「みぃぃぃいつけたぞぉぉぉぉおお」
明らかに不自然な行動をしていれば容易に容疑者へと認定されてしまう。
真夜中に気を失う女性を抱える使用人の少年。
あまり自然とは言えない組み合わせと状況に目の前の男は少年の言うことを真に受けてくれるだろうか。
答えはノー。
静雄の持つ長い十字架が正臣の真横をフルスイングする。
髪を頬を風が薙ぎ十字架に触れた髪がちりりと灰へ変わっていく。
その異様を認めた静雄の笑みがさらに深くなっていく。獲物を見つけた肉食獣のように獰猛なものへと。
ーおいおいおい聖職者の浮かべる笑みじゃねぇだろ!
頬を冷や汗が伝う。
内心で突っ込みを入れながら正臣は逃げの一択で静雄と距離を取った。
「くせぇくせぇんだよ!」
しかし長い道具を使う静雄の方が有利であり、その切っ先が正臣の胸を捉えようとしたとき正臣はあっさり抱えていた女性を静雄の方へと放り投げた。
放り投げられ向かってくる女性を傷つけるわけにもいかず十字の切っ先を地面へ振り下ろすと女性を受け止める。一瞬女性とその服に視界が遮られ、次に開けたときには正臣の姿はどこにもなく、代わりに屋根の上で静雄を見下ろす猫だけがいた。
しかしその猫も静雄に気付かれる前にという様に足音を殺して屋根をかけていった。

「にげやがったなぁぁあああ!!!!」

その後ろに静雄の叫び声を聞きながら。





     ♂♀




そんな相対から一夜明け、正臣にとっていつも通りの朝が来た。
夜中のうちに部屋へと戻るとそのまま何事もなかったかのようにベッドへ潜り込み睡眠を取る。
そして朝日が昇る頃に起きると朝食の準備をする他の使用人に挨拶をしながら自らの役割をこなす。
こなすはずだった。
朝市へ出かけた帰り、念のためにと教会から一番遠い通路を使い屋敷に戻ってきたときのこと。
使用人の使う出入り口の前に見覚えのある姿が見える。
金髪でサングラスに煙草。聖職者らしからぬその姿はまさしく正臣が昨夜あった人物だ。
正臣に気付くと静雄はにぃっと笑みを浮かべ昨夜の出会い頭と同じように呟いた。
「み つ け た ぞ」
昨夜と違うのはその声は音にはならなかったことと手には長い十字架を持っていなかったことだろうか。
しかしそんな些細な変化など正臣には何の意味もない。
回れ右をして立ち去りたい気持ちに陥りながらこのままどこへ逃げればいいのだと自問する。
帰る場所などこの屋敷以外にない。
それすらも臨也に握られている弱みだが捨てられないものだ。
近づいたら即座に殺される可能性の覚悟を決めて正臣は歩き出した。
聖職者という死に向かって。


そして正臣はそこで耳を疑う言葉を聞いた。


「手前のご主人サマはどこだ?」




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