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正臣ワンドロ『映画』


「あ」
「あ」

休日の昼下がり。
学校が休みなのを利用して俺たちは映画を観に来ていた。
今流行りの羽島幽平と聖辺ルリの新作映画。
バラエティーの番宣やCMなどでよく目にしていたその映画に帝人と杏里から誘われた俺は内心「二人でデートってことで見てこいよ」と突っ込みを入れつつ誘ってくれたことが嬉しく二つ返事で了解したのだが、その映画を見終わった今、この場であっちゃ気まずい人と出会いを果たした。

映画を見終わり劇場から出てきた俺達三人と何人かの女性を引き連れ今まさに劇場へと入って行こうとする青年。
俺とその青年ーー千景さんは目が合うなり示しあわせたかのように声を溢した。
それもそのはず。この映画は今目の前にいる千景さんと一緒に見に行こうと約束していたもので、あっちの方はどの映画を見に来たか知らないけど俺は一足先に見てしまったのだ。
気まずそうに視線を反らそうとしていたら千景さんも困ったような笑みを浮かべているのを見つけた。
まさか、千景さんも?
そう尋ねるように千景さんを見れば千景さんは手を顔の前に持ってきてごめんとジェスチャーで答えた。

そうしてそのまま俺たちは何事も無かったようにすれ違い、互いの友人の輪へ戻っていった。





そしてその夜。
ベッドに寝転びながら今日の旨を千景さんにどう謝るかメールを作っては削除を繰り返しているとインターフォンが部屋に鳴り響いた。
今日は誰かくる約束した覚えは無く、誰かと首を捻りながらドアを開ければ瞬間こちらへ伸びてきた腕。それに怯んでいると腕は俺を抱きしめ視界は見覚えのある頭を映した。

「…………いきなりなんすか千景さん」
「ごっめん!もう気付いてると思うけど正臣と約束してた映画、ハニーと一緒に見てきた」

出会い頭に抱き締め謝る千景さんになんだそんなことかと肩をすくめた。
それを言うなら俺も今日見てきたわけだし千景さんを責められるようなことは何一つなく。
それに千景さんのことだ。ハニーさんたちにお願いされたなら断れないことぐらい承知の上なわけで。
つまり怒ることなど何一つない。

「別に映画は何度見たって面白いし、またいけばいいだけの話だろ。今度は一緒に、さ」

つか俺も今日見てきたしと昼間出会った時のことをそえ伝えてにっこり笑えばお前もかと頭をくしゃり撫でられる。

そんな馬鹿みたいなことに何ともないことに気に止め謝りに来てくれた千景さんにこの人も律儀だなーと、些細な約束でも大切にしてくれていることに嬉しく思いながら、未だに抱き込めて離してくれない千景さんを抱き締め返した。


俺って愛されてんだなぁ。






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