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正臣ワンドロ『キス』



「さて問題です。今日は何の日でしょう」
本日5月23日、土曜日の朝早くから「みーかーどーあーそーびーまーしょー」と言う正臣の訪問に起こされた帝人は暫し無視を決め込んでいたのだが、その声は段々とエスカレートしてゆき、最終的には枕元でそのフレーズを聞く羽目になった。
彼に合鍵を渡した過去の自分を恨みながら、正臣のコールに渋々布団から顔を覗かせた帝人に掛けられた言葉が先のそれ。
不機嫌も隠さず「はぁ?」と見るが正臣は素知らぬ顔で間いれず「そうキスの日です」と本日の訪問理由でもあろう答えを紡ぎ出した。




それから半日。
帝人の一言も口を利いて貰えない正臣がここに誕生した。
無視を決め込み一人パソコンに興じる帝人の後ろで「みかどー構えー」やら「キスの日にキスしにいとはどういう了見だ!」やら騒ぎ立てている正臣だったが手応えは感じられない。
しかし帝人も半日これでは流石に疲れてくる。
わざとらしく大きなため息をついたあと、帝人は正臣の方に向き直った。
「正臣、キスしたら僕の言うこと聞く?」
「おうよ!帝人のしてほしいこと何でも叶えちゃうぜ!」
「そっか、なら目閉じて」
言質は取った。キスしたら帰って貰おうと思っている帝人の思惑など気付かぬまま正臣は二つ返事に云われるままに瞼を下ろした。
そこでふと疑問が浮かぶ正臣。
ここで今目を閉じたら何も見えない。つまり仮にキスされたとして、それが本当に帝人からのものとは限らないのではないか?
無論この部屋に帝人と自分しかいないのだから他人が関与することはないとして、唇ではなく指とか、はたまたその他触感が似ている何か、それらのキスをキスと言われてしまえば帝人相手に否定するのは難しい。
「おーっと、騙されるか帝人ぉ!指の感触でキスとかいわせ、な……へ?」
思いいたったら即行動、閉じていた目を見開かんばかりに開けるとそこに映った景色とは。
帝人の顔。
そう帝人の顔だ。
しかし普段見ているようなアングルからではなく、かなりの至近距離。それはもう顔の端などの一部は見えないほど近いもので、その距離は正しくキスをしようとしていた距離。
ねだったのは自分とは言えまかさ本当にあの帝人が!
帝人からのアクションに慣れていない正臣は暫し呆然と固まっており、その隙をつくように帝人は触れるだけのキスを唇に落とした。
そして離れていく帝人の笑みを見ながら正臣の耳は

「はい、キスしたから帰ってね」

などという無慈悲な言葉を拾うわけがなかった。





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