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I Protect You !(静正)
マルタイ×ボディーガードパロ






とある朝、そいつはやってきた。


     ♂♀


煩いまでに鳴り響く目覚まし時計を無意識に掴むと壁へと放り投げ、その軽快な破壊音で目が覚めた。
無残に散らばる目覚まし時計だったモノを見つめて俺は「またやっちまった…」とぽつりと呟いて頭を掻く。
今月で時計を壊すのは何個目だっただろうか。
最早目覚まし時計を掛けて寝起きするのはやめた方がいいのではないかというほど壊しているが、だからと言ってなしで起きられるほど器用でもない。
何か対策を考えなければただでさえいろんなモノを壊しトムさんや社長に迷惑をかけているというのに。
とりあえず手の届かないとこにおいて様子を見るかなど考えながら朝食を食って仕事に行こうと起き上がる。
すると机の上に充電しっぱなしで放置していた携帯の着信ランプが光っているのに気付く。
電話もメールもする相手はほとんど決まっており、トムさんが仕事のことで何か連絡してきたのかと首を傾げながら携帯を開き見た。
メール着信の相手は幽で、いつもは電話が多くメールは珍しいなと思いながら内容を確認する。
「はぁ?」
読み進めていくうちに思わず呆れ声が出る。
幽からのメールは俺の性格を考慮してか簡潔だった。
『ボディーガードを雇ったから今日そっちに行きます。詳しくはその人から聞いて』
簡潔にもほどがあるだろうというほどで、理由はない。
幽本人に直接訳を聞こうとメール画面を閉じると電話帳から幽の名前を探して電話を掛ける。
しかしコール音すらなく、無機質な「電源が切れているか〜」というアナウンスが流れた。
あいつの仕事柄時間は不規則で今は寝ているのか仕事なのか。
仕方がなく後で掛け直すことにして、問題はそのボディーガードだ。
今日のいつ来るかも分からないし理由も分からない。
そもそもボディーガードをどうして雇わなければいけないのか。
ボディーガードが必要なのは幽の方だろう。自分は身体だけは頑丈で喧嘩も強い。
寧ろそのボディーガードが俺の喧嘩に巻き込まれて怪我しそうだ。
来たら断ることを決め、朝食の準備を始めた。

そうして数十分後、部屋にインターホンの音が鳴り響いた。
そろそろ出かけようとしていた俺は朝早くから誰だろうかと面倒に思いながら玄関のドアを開けた。
するとそこには見知らぬ少年が立っていた。
茶髪にピアス、白いパーカーの少年はどこにでもいそうな今時の若者で、俺を見るなりニカッと満面の笑みを浮かべ口を開いた。
「這い寄る悪から貴方を守る、貴方だけの騎士。紀田ま「チェンジ」
「いやいや、デリヘルじゃないんすから何を言ってんすか」
やけにハイテンションでこっ恥ずかしいセリフを吐く少年に思わず言葉が出る。
よく素でいえるなと思いながら返した言葉に反応する紀田という少年は呆れたように肩を竦めた。
つーかなんだこいつ。
「あんたがヘイワジマシズオさん?弟さんからの依頼で暫くあんたのボディーガードをする紀田正臣っす」
するとまるで俺の心を読んだかのタイミングで新ためて自己紹介をし直す紀田。
どうやらこの少年が幽の言っていたボディーガードのようだ。
「って、は、お前が!?」
納得しかけたとこで耳を疑う。
普通ボディーガードというと屈強な大人が務めるもののはずだ。
どう見ても年下な少年が俺のボディーガード?俺より弱そうなのに?
まだガキを相手するならわからなくもねぇけど、俺相手には明らかに人選ミスだろう。
「そうっすよ、聞いてないっすか?」
「ボディーガードを付けるってしか聞いてねぇ。つかそもそもそんなもんいらねぇし、なんで幽はいきなりつけるとか言ったんだ?」
知ってるわけねぇ、知ってっても守秘義務とかいうやつで教えるわけねぇかと聞いてから思う。
しかし紀田は少し驚いたように目を見開いた後、辺りを見渡してから言葉を選ぶように言った。
「っと…簡単に言えば守るため。双方を」
「は?どういう意味」
「んじゃ、これからよろしく、シズオさん」
双方?何を、聞こうとするが会話は終わりという様に紀田は手を差し出して元気に笑う。
その笑みからはこれ以上何かを聞き出すことは無理そうで、仕方がなく俺はその手を握った。
思いっきりに。
「いだぁっぁぁぁあぁあああ!!!!」
「どういう意味だ」
「痛い痛い痛い!!!いてぇって!折れる折れる!!」
「紀田」
「わかった分かったから離せって!」
思いっきりと言ってもさすがに自分の力は自覚している、普段より少しだけ強く握ったのだが大声を上げる紀田に本当にボディーガードなのかという疑問さえも浮かんでくる。
涙目に解放された手をさすりながら紀田は諦めたように話始めようとしてまた口を閉ざした。
「とりあえず中入ってもいい?流石にここでは無理」
先ほどのことがよほど答えているのか少し遠慮がちに聞く紀田に俺は未だ玄関先で話ていることに気付く。
頷くと場所をリビング兼寝室に移す。
机を挟んで座ると紀田は肩に掛けていたカバンから用紙を数枚取り出した。
「これが契約書と簡単な俺のプロフィール。で、理由だけど、幽さんが今ストーカー被害にあってんのは知ってる?」
「は?!」
「あー知らない?まぁ、そういうことでそのストーカーの被害があんたにも及ばないかって心配したらしくて俺にお声がかかったわけ。アンタがそのストーカーに怪我を負わされないかと負わしてしまわないかという双方の意味で、ボディーガードを任されたってこと」
ストーカーの話は初耳で、しかし今始まったことでもないことは確かだ。
行き過ぎたファンがいることは知っている。
紀田の話を正面から信じていいのか迷っていると話すことは終えたという様に紀田は最後に一言だけ付け加えた。

「そうそ、俺のクライアントは平和島幽さんだからあんたが何と言っても仕事は遂行させてもらっから」



      ♂♀



こうして転がり込んできたボディーガードという少年との奇妙な生活が始まった。









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