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正臣ワンドロ『恋人』

正臣は暇を持て余していた。
畳みに寝転び、何をするわけでもなくただぼーっとしていた。
否、正確にはぼーっとしているわけではない。
視線の先にある背中へ何度も声を掛けている。掛けているのだが、その返ってくる返事は空返事。
つまり、その背中の人物に構って貰えず暇をしているというわけだ。
正臣が友人であり、つい最近恋人になった帝人の部屋へ訪れ、早一時間。
暇だから遊びに行こうぜと誘う正臣に帝人は「ちょっと待ってって」と言ったきりパソコンに向かって正臣の方をちらりとも見ない。
そろそろ拗ねるぞと飽きずに正臣は帝人の背中を見つめ、念を送る、が、帝人には届いていないようで何の反応もない。
「みーかーど、構えよ」
ごろりと転がりながら帝人に近づく正臣はそのまま止まることなく帝人へ転がって行く。
流石に軽めと言えど体当たりを食らった帝人はちらり正臣へ視線を向けた。
「もう少し大人しく待ってってよ」
「待てって俺は犬か!さっきからずっと待ってるぞ!もう少しっていつまでだよ!」
「これがキリついたらね。てか暇なら一人で遊びに行けば?」
「冷たい!それが恋人に対する態度かよ。恋人ならもっと熱いアクションがあってもいいだろ」
「はいはい」
正臣の構えコールに帝人はやれやれと肩を竦め、己の傍で寝転がる柔らかな髪を撫でた。
しかし撫でただけ。
視線はもうパソコンに向いているし、撫でていると言っても片手間だ。
相も変わらず冷たい態度。
友人の頃から変わらない、ぶれない帝人の自分への接し方に正臣も我慢の限界だ。
はぁああと大きなため息をつきながら身体を起こす正臣の表情は不機嫌顔だ。
眉を潜め、眉間にしわを寄せ、普段の明るい笑顔はなりを潜めた――が、それも一瞬。
次の瞬間には笑みが浮かぶ。
しかしそれは明るいものと言うよりは悪戯を思いついた子供のそれ。
いつもの様に冷たい態度の恋人に正臣もいつもの様に構い倒すことに決めた。

正臣は思う。
いつまで経っても冷たい恋人に未だに愛想を尽かせないのは惚れた弱みか、そんなところも好いてしまったのか。
それともそういう態度は自分だけしかとらないという安心感からか。
正臣は楽しむ。
今日も今日とて帝人を構い、冷たくあしらわれるその日常を。

それが自分たちの愛だというように。


「よし、帝人。デートしよ!」
「はいはい、いってらっしゃい」







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