ナルコレプシー(静正) "時が欠ける" あいつはそういっていなかったか。 ♂♀ ふと目が覚めた様に意識が覚醒した。 しかし寝入った記憶はないし、目の前に広がる風景は自室でもなければどこかの天井というわけでもない。 真っ暗闇の中立ち尽くす俺はまたかと息を吐き出した。 最近よく知らない場所にいる。 そこの場所に至るまでの前後の記憶が抜けている。 気付いたら時間が過ぎていることが増えてきている。 俺は病気なのだろうか。 病院に行く前に誰かに相談してみようか。 考えて、俺は首を振った。 余計な心配は掛けたくない。相談するぐらいなら受診しよう。 とりあえず、っと俺はこの場所から離れることにする。 その時やっと気付いたかのように自分の周りに蹲る人影と異様なまでに鉄臭に気が付いた。 今までどうして気付かなかったというほどの、臭い。 思わず腕で口元を覆った。しかし臭いが和らぐことはなく、寧ろ増した気さえ思う。 そして俺は気付いた。 明かりも全くない暗闇で、その倒れている人物の顔に。 ドクンっと鼓動が跳ね上がる。 呼吸が荒くなる。 影は一つではなく、その影全ての顔に見覚えがある。 中学生に見間違える童顔。眼鏡を掛けた少女。いつも憎たらしい笑みを張り付けていた青年。鉄臭に混じる煙草の匂い。 アニメや漫画の話で盛り上がっていた男女。面倒見の良い青年。黄色い装束を身に着ける少年達。 ぶるりと背筋が凍る。 知己の変わり果てた姿。 闇の中でもその惨状は目に見え、 あるものは首だけで。あるものは四肢を失い。あるものは腹を抉られ。あるものは上半身だけで。あるものは腕を歪に曲げ。あるものは鋭利なもので肢体を貫かれている。 逃げ出したくなる思いを必死に振り払い、俺は伸ばした自分の手を見て目を見開いた。 赤。 赤。朱。紅。緋。ー…血。 そこだけ色彩を取り戻したかのように闇に浮かぶ鮮やかで、ぬめりを持った色。 手を濡らし服を染め上げ視界を覆う、血色。 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ あああああああああああああ ああああああああああああああ ああああああ ああああああああああああ ああああああああああ ああああああああああああああ あああああ ああああああ あああああああああああ ああぁあぁぁぁ 俺はあらん限り叫び、そして耳元にその囁きを聞いた。 『さっさと壊れて?』 ♂♀ 紀田の顔が歪む。 悪夢を見ているのかうなされている。 俺は慌てて紀田の身体をゆすり声を掛け起こすがそれに応える様子はない。 暫くそうしているうちにはっと覚醒するかのように目を覚ました紀田は俺を見て一言口を開いた。 「…何で俺…ここに…?」 以前ポツリと紀田がこう零していなかったか。 "時が欠ける" とー…。 |