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残欠(臨正)
※【欠片】の続き



泣いている。
誰が?
分からない。
でも、心を痛めて泣いている。
淋しそうに、哀しそうに。

探している。
何を?
分からない。
でも、必死に探している。
求めるように、縋るように。


どうしたんだ?
小さな影にそう問い掛けようとすると、影はこちらを振り向き

「    」




♂♀





そして正臣は、すぅっと意識が浮上するように目を覚ました。
いつの間に寝たのだろう。
ゆっくり瞼を持ち上げながら、覚醒しきらない頭で考えるが記憶にない。
内心緩く首を傾げながら開けた視界が捉えたのは、世にも珍しい光景だった。

「あぁ、起きた?」
「臨也…さ…ん…?」

目が合う臨也の何処か安心したように微笑んだ顔。
一瞬ではあったものの、珍しさに忘れることは出来ないだろう。
臨也が心配するようなことでもあっただろうかと身体を起こしながら考えるが何も思い出せない。
正臣の心情を読んでか、それともたまたまか、臨也は気遣う言葉と共に簡単に正臣の身に起きた事を説明し始めた。

「無理に動かない方がいいよ。何たってサイケに乗っ取られていたんだからね。信じるか信じないかは自由だけど…気分はどう?」
「サイケ…」

身体の怠さはあるものの何処かが痛むとか違和感があるわけではない。言葉だけで心配してくる臨也に大丈夫というように笑いかけ、彼の言葉に引っ掛かりを覚え臨也を見た。
目の前の相手とそっくりに作られ暴走した情報体。
ふと目が覚める前に見ていた光景の人物に気付き、流れ込んできた感情を思い出し、正臣は考えもなしに臨也の胸倉を掴んでいた。
掴み、引き寄せ、思いっ切り睨みつける。
悲しげとも怒りとも嫌悪とも取れる眼差しで、真っ直ぐ力強く。
臨也はと言うと一度だけ息を吸い込んだと思うとそれだけで、抵抗も言葉すら掛けて来ない。正臣の行動を理解しているとでも言うかのように。
暫く無言の睨み合いが続いた後、徐に正臣は掴んでいた手を離した。何か言いたげでしかし口を詰むんでいる。
悔しそうな顔のまま俯く正臣を見て、臨也は煽るように声を掛けた。

「殴らないの?」
「……」
「殴れるわけないよね。君だって同罪なんだからさあ。何もしなかった、ただ見ていただけ…うん、立派な共犯関係だ。それなのに自分のことを棚に上げ、実行者の俺だけを責める訳には、いかないよねぇ。」
「…んで…」
「?」
「何で、アイツを消したんだ?確かに臨也さんとしては要らなくなったからだろうけど、わざわざ消す必要は無かったんじゃ」

今更どうこう言っても見ているだけしかしなかった自分がどうにか出来るわけじゃない。
分かっていたが、知ってしまった以上、正臣にはただ状況を受け入れることだけは出来なかった。
今からでも何か手があるんじゃないか。そもそもどうしてこんなことをしたのか、何か何かないかと正臣は疑問を口にしていた。
サイケの感情に感化されたのか、今にも泣きそうで。
サイケの行動を模範しているのか、少しでも手掛かりを探そうと。
正臣の行動が気に食わないのか、ふぅんと息を吐き出すように呟いて臨也は最も残酷な我が儘を吐き出した。

「正臣君を手に入れた時点で俺にはもうリンダ[慰め物]は要らなくなった。だから棄てた。そこに敢えて理由をつけるなら…」

事の起こりを簡単に説明するように言葉を紡ぎ、そして溜めるように一拍おいてから臨也は無邪気に無慈悲に無情に笑い、

「例え代わりでも正臣君は俺だけのものだよ。」

「プログラム如きに、身代わり物でも渡すものか。」

残酷で大きな嫉妬と支配欲を正臣にぶつけた。
想像以上の身勝手で馬鹿げているものの恐怖を覚えるその宣言に正臣は小さく息を飲み、自分が好きになってしまった相手の非情さと淋しさに気付くと後者を悟られないように唇を噛み締め悪態をつく。

「アンタはホント最低だ。」
「その最低な奴を好きになったのは誰?」




【残欠】






今日もサイケは見ていた。
特別隠れているつもりはないのだが、彼の視界に入らないところでいつも様子を伺っているため気付かれることはない。
だから今日もサイケは見ているだけだった。
だけのつもりだった。
ふと何かを敏感に察知したのか、それとも思い出したのか、サイケは立ち上がると跳躍した。
見下ろしていたその場所へと飛び降りる為。
そうしていきなり彼の目の前へと現れる形となったサイケは、驚く愛しい顔を淋しげに見つめながら手を差し出した。

「ねぇ死にたい?死にたくない?」

プログラムに確実な死があるのかどうかは不明だが、削除されてしまえばそれは彼らにとって死と同価値のものだろう。
不吉な事を言うサイケに何か怒鳴ろうとした日々也を横目に、サイケはもう一度問う。

「死にたくないなら俺と一緒に来て。リンダ…ううん、今はデレちゃんかな。ね?」

差し出された手をどうするか決めかねているのは、かつてサイケが愛した少年[ソフト]の名前[愛称]と今は日々也が愛を注ぐ少年[ソフト]の名前[愛称]。
柔らかな茶髪を揺らめかせ、蜂蜜色の瞳が動揺に揺らぐ。黄色のドレスと裾を力強く握りしめ、彼は









‐‐‐‐‐
次で終わる予定。
日々デレのつもりで書きはじめたのにサイリン果ては臨正にまで道がそれたよ。ここからどう展開していくのか私も知らない。






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