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欠片(サイリン)
※【残滓】の続き。




真っ白。
まるで雪国に迷い込んだかのように一面白い世界に正臣は目を見開き固まった。
彼は何時ものように仕事を始めようとパソコンを立ち上げただけだった。
簡易パスを入力し、立ち上がり始めたパソコンが映し出したのは白。
本来配置されているアイコンがないのはおろか映し出される初期設定のままな青いデスクトップ画面も出てこない。
ただ白いだけの小さな世界。
ウィルスにやられたのかと正臣は慌てて操作しようとするもマウスポインターすら現れず、成す術もない。
これは己の雇い主に任せるしかないと肩を落としているとふと、白い世界に色がついた。
何かが現れたというよりは綴られた。つまり文字が浮かびあがったのだ。
まるでキーボードに打ち込んだ文字の様にローマ字変換で一字一字打たれ変換され一つの文章を紡いでいく。
一種の怪奇現象に身を強張らせながらも綴られた文字を読み上げる。
するとその怪奇現象の犯人が分かり正臣は安心するように肩を撫で下ろした。

「サイケ達は無事そうなんだな。」

文字の犯人はパソコンにインストールされたソフトで、その愛称を呟きながら書かれた文字を疑うことなく行動に移した。
サイケは臨也の作ったソフトの一つだ。始めの用途とは違ったものの、ウィルスバスターのような役割を果たしている。
今回のこともやはりウィルスのせいらしくその対処を説明するからヘッドフォンを装着して欲しいとのことだった。
音声で指示した方が早いということで、正臣はさして疑問も持たずにヘッドフォンを引き出しから取り出すと耳へと宛がい、


そして、正臣の意識はそこで途切れた―…





そして数時間後、正臣がパソコンを弄っていると玄関から物音がし、視線を向ければ己の雇い主、折原臨也の姿を捉えた。正臣は小さく口端を吊り上げると臨也を呼ぶ。

「臨也さん、ちょっといいですか?さっきこのパソコンにウィルスが侵入したみたいで。」

何でもない、業務報告のようなものだ。今は元通りに見えるデスクトップだが、中に収められていたデータが寸分狂いなく復元出来たとは限らない。臨也も全て覚えているわけではないだろうが必要なソフトなどは記憶しているはずだ。あと何が足りないか聞くために臨也を招き寄せた。
正臣の言葉を聞くと疑わしげに眉を寄せた臨也だが、正臣が自分に嘘をつくわけない。ついたとしてもこのような意味のない嘘はつかないだろうと判断すると疑問こそは持ちつつも軽い足取りで正臣の背後に立った。

「サイケや六臂はどうしたの?」
「サイケはウィルスの駆除、六臂にはデータの復元してもらってますけど俺だと何から手を付けていいか分からなくって。」

座る正臣の肩に手を起き、パソコンを覗き見ながらパソコン内にインストールしてあるはずのソフトが何をしているか尋ねる。サイケはともかく六臂はこう言うときの為のソフトであり、それらもダメになったのかという問いだ。
正臣はそんな質問されたことに淡々と答えながら振り向き見上げた。
目が合う臨也が正臣の行動に理解出来ないのか緩く首を傾げる。何かまだ伝えることがあるのだろうか。
正臣の次の行動を待っていると臨也はいきなり腕を引かれた。
組み敷かれるように机に両腕を押さえ付けられ、動きを封じられる。振り払おうにも振り払えない。普段なら簡単にあしらえるはずで、力は臨也の方が多少上だ。なのに臨也は振り払うどころか数ミリ動くことすら敵わない。
そして拘束された右手が自由になると同時に臨也は首元に圧迫感を感じた。
首が絞まるか絞まりきらないか絶妙な力加減。
そこで臨也はここにきて初めて違和感を持った。
何故正臣はヘッドフォンなんかをしているのだろうか、と。

「ねぇ、イザヤ。リンダを何処へやったの?」

そして紡がれた言葉に確信した。
目の前にいるのは紀田正臣ではない。
ついでに付け加えるなら生物もなく、現実世界に存在するはずもないモノ。

「サイケ。そんなことも出来るんだ?」

サイケデリック Type.I。
本来二つで一つのソフトだった今はウィルスにもバグにもなれない情報体。
片割れを壊したその時に自らの性能も壊し今は電子世界をさ迷う亡霊のような存在。自我はあり、なんの気まぐれか臨也のパソコンに住み着き、ウィルスや情報を食べていた彼が今、紀田正臣の身体を使い臨也の首を絞めていた。

「リンダは何処」

臨也の質問など興味がないようで、自分が知りたい事をただ端的に尋ねる。
己が愛した存在。
己を愛した存在。
唯一無二の存在の有無。
冷えた目で正臣の身体を借りたサイケが睨む。
「何処」と尋ねる度に加わる力。
臨也は苦々しく、しかし何処か楽しげに笑うとサイケの質問に隠すことなく答えた。
無情で非情でどうしようもない現実を。

「居ないよ。もう何処にも…使わなくなったものは捨てないとね。」

サイケも薄々気づいていたのだろう。
臨也が答えると同時に首へ掛けていた圧力に容赦が無くなった。
しかし臨也も馬鹿ではない。何も考えずにサイケを絶望させ自らを追い込んだわけではない。
言うと同時に、首へ掛かる負荷が増したのと同時に、臨也は袖口に仕込んでいたナイフを取り出すとスパッと勢いよくヘッドフォンのコードを切断した。
途端、正臣の身体は支えを失ったかのように崩れ落ち、臨也に倒れ込んだ。
優しく抱き抱え、様子を見てみるとすうすうっと気持ち良さそうな寝息が聞こえ見た目にはサイケに乗っ取られていた後遺症はなさそうだと判断する。
横で起動したままのパソコンに視線をやると画面に白い影が見え、臨也はサイケに語り掛けているのか独り言なのか僅かに表情を歪めながら今回の経緯を話しはじめた。

「全く…リンダに関する情報は全部一緒に削除したと思ったんだけどな。六臂や日々也達がもつ記憶もリンダに関わるもの全て。お前には無理だったってことか。…しかし情報体がデータを愛するとか馬鹿げすぎだろ。まぁ、そんなデータももうお前を見ちゃいないみたいだけどな。」

最後に小さく「六臂も要らないことをしてくれるし。」と毒を吐くように苛立たしく呟くと臨也は正臣を抱えてパソコンから離れていった。
臨也の言葉を何処まで聞いていたのか、サイケは無表情のままデスクトップ画面から姿を消した。





【欠片】







サイケの見下ろす先には自分が愛した人と同じ顔の別の存在。
柔らかな茶髪で幼い顔の少年は華やかなドレスに包まれ笑っていた。
その微笑む先にいるのは自分と同じ顔の別の存在。
顔だけ見ればいつかの自分たちのようだとサイケは複雑に思いながら面白くないと終始仏頂面で見ていた。
するとその横に配色は同じだが服のタイプは違う同じ顔の青年が現れる。
ちらりと一度視線をむけ、相手が誰だか確認するとサイケはまた視線を戻した。

「桜(さく)ちゃん何か用?」
「迎えに行かないの?」

白地に桜の花びら模様の上着を羽織る青年。桜ちゃんと呼ばれた彼もまたソフトの一つだ。
画像編集ソフトの桜也と呼ばれ、容姿は六臂、日々也、サイケと同タイプ。
桜也は見ているだけのサイケに尋ねるとサイケは小さく頷き、そして残酷な言葉を吐いた。

「だってアレは俺のリンダじゃないし。……だからさ、もうこんな世界、要らないよね。」

その言葉を真っ向に受けた桜也は是も非も言わず、ただ悲しげに全てを見つめた。






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まししゃんにきょうよ続き待機されたから書いてみた…続き?
桜也ごめん、あんたの設定テキトー←




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