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残滓(日々デレ臣)



「んーもういらないっか。必要もなくなったしね。」

その日、一つのアプリがアンインストールされた。
それがどんなアプリか、どんな理由でインストールされアンインストールされたか知る少年は気だるげにソファーに横たわりその様子を見つめ、目が合い微笑み掛けてくる青年に毒を一つ吐き捨てた。

「あんたはホント、最低野郎だな。」


♂♀



電子で構成される世界。
現実と虚像の入り混じる世界で一人の青年が小さな欠片に気付いた。
ファーの部分が赤い、黒のファーコートを着崩す青年は徐にその片手の平にも収まる小さな残滓を手に取った。
理由は青年にも分からない。ただ助けを求められている、そんな気がして思わず消えゆくソレを阻止するように手に取ったのだ。
手の中で今にも消えてしまいそうなデータの欠片。青年はどうするかとしばし悩んだが、手にしてしまった以上見捨ててしまうにも気が引ける。それに、と青年は手の平の欠片を観察して思う。何故か懐かしく、ここで見捨ててしまえば後悔する、そんな感情が自分の中で浮かび上がっていた。何のデータかも分からないその欠片に対して、だ。
理由も分からない気持ち、それを解消するために青年はそのデータを復元してみることにした。
データの型は古く、復元には少し時間が掛かったが元通りとはいかないにしろ大まかには完了したところで青年は一度作業する手を止める。
目の前にある復元したデータ。癖のない丸い茶髪の幼さを残す眠った顔。白いシーツに包まれた裸体のまま壁に寄り掛かる様に寝かせられたソレを見て青年は首を傾げた。
随分前に流行った愛玩アプリソフト。人気を呼んだそれは今ではいくつかバージョンアップされているがこのソフトは初期バージョンのままアップデートもされた様子はない、そのどこかで見たことがあるような顔のアプリの寝顔を見つめ眉を潜めた。ゼロかイチしか存在しないこの世界で説明できない感情が浮かんでいる。そのデリートされ掛けたアプリに、胸のもやもやは晴れることはなく、青年はどうするか考え始める。
このまま起動させても胸のもやもやの理由が晴れるとも限らないし、何と言っても邪魔だ。
使えるソフトなら自分の手伝いをさせるものありかと思っていたが愛玩ソフトではそれも無理だろう。だからといって再びデリートするには気が引ける。
このソフトの対応を決めかねているとふと後ろから声を掛けられた。

「六臂、少しいいですか?」

自分と同じ声音と同じ姿。六臂と呼ばれた青年は嫌そうに顔を歪めて振り返ると予想通り、そこには独創的な王子様スタイルの青年が立っていた。
ボーカドイドソフトの日々也。イメージカラーのゴールドをそのまま服装に反映させた自称王子。
ろっぴは面倒な奴が来たと表情には出さずに思いながら「何か用?」と淡々に尋ねた。

「用がなければ来ませんよ。少し気になることがありまして…おや、」

敬語で礼儀正しくはあるが傲慢で高飛車でもある日々也。機嫌のいい今日は比較的大人しげだ。
何の用だと思いながら、その用をさっさと済ませてしまおうと肩を竦めながら六臂が日々也に向き直ると彼は六臂の傍に横たわるアプリ気付いたらしく視線をそちらに向けたまま首を傾げた。
「それは?」と尋ねて来る日々也に対し六臂はアプリの存在を隠す理由もなければ手短に説明した。このまま起動するかどうか悩んでいることも。
話を聞いた日々也は暫く考えたように口元に手を沿え眠る様に起動を待つアプリを見つめている。
そして何か思いついたのか小さく笑うと六臂にとある提案をした。

「それを譲っていただけませんか?」


そのあと起動するかから迷っていた六臂は定期的に彼の様子を見せることを条件に日々也にそのアプリを譲った。
そのまま帰る日々也に用事はいいのかと尋ねると、日々也は楽しげに笑いながら「もう済みました」と六臂には意味の分からない言葉を残して去っていった。無理に引き止めるつもりもない六臂は特に疑問も持つことなくその姿を見送る。
そうして再構築されたアプリを持ち帰った日々也は自室でそれを起動させ、ゆっくりと目を開くアプリに日々也は優しく微笑むとその手を取り愛おしそうに口づけた。

「やっと手に入れた。《私だけの姫》」




♂♀




数日後。様子を見に来た六臂は彼の姿を見て目を細めた。
柔らかそうな茶色の髪、蜂蜜色の瞳。映える様に彩られたフリルをあしらった黄色のドレス。
六臂の記憶している彼の性別は男だ。日々也もそれを理解しているはずで、理解していながらこの服装を選んだのだろう。理解出来ないと無表情に嘆息を尽きながら当の本人を見る。

「どうです、私の可愛らしい姫は」
「俺と同種のモデルは嫌と言うほど本人似だな。」

自慢げに微笑む日々也に自分たちの持ち主の顔を思い出し、彼が普段からどのような人間で、恋人にどのような仕打ちをしているか知っている六臂は苦々しい顔でそう毒を吐いた。

「サイケよりはマシなつもりですよ?」

日々也の否定もなければ肯定でもない言葉を聞き流しながら、イチから日々也好みに育てられたアプリを憐れに想い、もう一人の同種モデルソフトの存在とその恋人であるソフトを思い出すと六臂は更に表情を歪めた。





【残滓】






別の場所。
真っ白な世界にぽつんと色が落ちている。
世界と同じ白にアクセントのように配色されたピンクのコートを着る六臂や日々也と同じ顔の青年。
何処までも続く白を見上げながら彼はポツリと呟いた。

「ねぇ、リンダ…何処にいるの?」








‐‐‐‐‐‐
一か月以上放置していたせいで終わりの日々也と六臂の部分がどうだったか詳しく思い出せない…
まぁ、日々也も案外歪んでるよねってこと。





あきゅろす。
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