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内緒のウェディング(帝正)



午前中に行われた卒業式の名残も薄くなり始めた夕方。温かく柔らかな橙に染めあげる誰も居ない教室に、式の名残を残すままに目元を潤め鼻が仄かに赤い少年と彼とは真逆に初めから式特有の寂しさ悲しさを感じていないかのように明る気に笑う少年が相手をからかう様に入ってきた。
詳しく言うと戻ってきたともいうべきだろうか。
彼らは今日で最後になる3年間世話になった教師、校舎に別れを告げるように適当に校舎内を回ってきたところだった。いつも行動を共にしている少女も誘ったのだが彼女は用があるからと不在で、それを残念に思いながら一年の教室や普段よく行く場所から今日まであまり足を運ばなかった場所まで一頻りみて回ったところだった。
そんな別れの儀式とも言えよう校舎探検の終わる頃合いにもなれば教室を出る前に中に集まっていた集団も帰宅してしまったらしく中には自分たちの証書の入った筒が机にぽつんと置かれているだけの何とも淋しい情景を作り上げていた。

「流石にこんな時間になると誰もいねーのな。」

先陣切って校舎内を回り、ある意味最後まで帝人を連れまわしていたと言っても過言でもない正臣がやはり先陣切って教室に戻り入ると誰に掛けるまでもなく呟いた。
すぐ後ろを歩いていた帝人は目尻に溜まる涙をぬぐいながら同じように教室に入り見渡すと「そうだね」と寂しげに同意する。今日で最後なのだからもう少し遅くまで誰か残っていると思っていた。でも現実は自分達以外誰も居ない教室。校庭からはまだ声が聞えるがそれも疎らで、校舎内にはもう誰も残っていないのではないかと錯覚するような静けさに満ちていた。
そんな光景を淋しいと思いながらも帝人は少しばかり喜んでいた。
これから自分が起こす行動を思うとここに教室に校舎に誰も居ない方が好都合なのだ。
本当は今までの校舎を回っている間の誰も居ない場所や頃合いを見計らって言うつもりだった。しかし帝人の勇気はそれを言葉に声にする前に力足りずという様に形を成す前に崩れて、結局ずるずると今に至ってしまったのだ。
だけどもう後がない。
例え、会うのがこれで最後じゃないとしても。
例え、進路先が違ってもまた遊びに行ける機会があるとしても。
例え、同じように二人っきりになれるときがこの先何度も訪れようとも。
伝えるのは今日しかない。
何故か帝人の心には確信にも似た思いが溢れていた。
今日、伝えないとこのままなあなあな関係のまま終わってしまうという確信にも似た何か。
確かに想いを伝え、恋人同士になった。キスもその先も経験済みだ。
でもこのままでは何かが駄目な気がすると、もっとその先に進みたいと思う気持ちが今の帝人の中にあり、行動に移させようとしていた。

背中を向けて帰宅する準備をしている正臣を見つめる。
そっと歩み寄る。もっと近くへ、触れれるほど近くへ。
そして、ゆっくり口を開く。

「ぼ、僕は生涯、紀田正臣を愛することを誓います」

言葉にすると同時に顔を真っ赤にしながら帝人は紡ぐ。
力強く、真剣に愛の誓いの言葉を。

「健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、どんな時でも僕は紀田正臣を愛し慰め助け、この命ある限り、真心を尽くすことを誓います。」

一拍遅れて驚いたような恥ずかしいと言うような照れたような嬉しいような様々な感情が入り混じった表情で正臣は振り返り、真っ直ぐに見つめてくる帝人の視線に絡み捕られ、恥ずかしさと照れからはぐらかそうと開いた口が言葉を紡ぐ前に止まった。
帝人の真剣な想いを自分の一時の感情ではぐらかす気にはなれなかった。いや、したくなかった。
開いた口を一度きつく噛み締めると、正臣は向かい合う様に体勢を姿勢を変えて帝人を見つめた。

「俺も…」

そして口を開く。
卒業式だったこともあってなのか正臣の脳裏には様々な光景が流れた。
帝人が池袋に越してきてからの3年間。
楽しかった日々。悲しかった時間。淋しかった瞬間。傍にいて欲しいと願った時。傍にいてやれなくて悔やんだ時。進む道を間違えた瞬間。
歓喜。悔恨。寂寥。…この3年間のいいとも悪いともどっちとも取れる最早思い出と昇華した記憶が脳裏を過ぎり、当時の悲しさなのか、今この瞬間への喜びなのか不覚にも泣きそうになりながら正臣はあと一歩のところで踏み止まり、大きく深呼吸はして真っ直ぐに帝人を見つめた。

「どんなことがあろうとも、竜ヶ峰帝人だけを愛することを誓います。」

はっきりとした言葉。
帝人は嬉しそうに笑うと正臣に向けてそっと手を伸ばした。
伸ばされる手に引き寄せられるように顔を近づけるとほほを包み込むように添えられ、どちらともなく唇を重ねた。

それは誓いのキス。
誓いの言葉を封印し、永遠のものとするー…




【内緒のウェディング】





「あとこれ」

暫くして帰宅する準備を再開した正臣に帝人は思い出したかのように一つの鍵を渡した。
手の平で輝く銀色を見ながら正臣はきょとんと驚いたようにその鍵を見つめる。
どうみてもそれは部屋の鍵で、しかし帝人の家のモノとは違うもう少ししっかりしたセキュリティ性のある鍵。

「え、何?」
「何って4月から一緒に住む部屋の鍵だよ。一緒に暮らすのに鍵がないと不便でしょ?」

本気で困惑し、心当たりがないと言う正臣に帝人はさも当たり前に説明した。
今の今まで一言も一緒に住むという相談もなかったということにもかかわらず、帝人はさも当たり前の様に正臣と同棲することを告げたのだ。

「は、ちょっ待っ、待って。話がいきなり飛びすぎだろ?!」
「正臣は僕と一緒に暮らすのはいや?」
「そうじゃなくて…。もしかして帝人…俺が直前に進路変えたの怒ってる?」

帝人にしては強引なやり方。
先ほどの『婚礼』もいきなりすぎたがこれも唐突で、しかも強引だ。
どうして帝人がこんな行動に出たのかと考え、ある事柄を思い出す。
それは帝人をここまで強引にするのも頷けるし、怒らせるには十分すぎる事。
3年の初めには一緒に大学進学を目指していたのに、直前になって就職へ変えたことだ。
様々な考えがあっての事で、帝人にもちゃんと説明した。その時は「仕方がないね」と納得してくれたはず。
恐る恐る心当たりを尋ねる正臣に帝人は満面の笑みで「さぁ?」と答えた。


こうして4月からまた、新しい生活が始まろうとしていた。








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一週間くらい前にツイッターで唐突に募集したシチュその2。
マゾたんことたんそちゃんリクの「二人だけの結婚式」
前に彼女と妄想語り合ってたらしいけど…ごめん、忘れた←
あともろ太さんが挿絵描いてくれるらしくって今から楽しみ///(らしいてかリクしたんですけどねw)




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