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とある狐の餌事情(臨正)




何気なく赴いた北の大地。
深々と降り積もる雪を踏みしめながら、俺はソレに出会った。


雪の為か車道には車の姿はまばらで、
人の影はもちろんない。
街まではかなり歩かなければならなく、
こんな雪の日に好んで出掛けるバカはいるはずもない。
俺も仕事じゃなければホテルに引きこもっているつもりだったそんな雪の中、
ソレは風に吹かれるゴミのように車道の端、歩道と示す白線の内側に転がりこんできた。
傍には林があり、きっとその中で暮らす生き物なのだろう。
薄汚れて艶のない毛並。
痩せ細った小さな体。
本来はふっくらしているであろう尾はふくやかさは愚か毛並がまばらで生えそろってさえない。
みすぼらしい子ぎつね。
ソレが餌を求めるように俺の足元に擦り寄ってはご機嫌を伺う様にちらりと見上げてくる。
目が合う焦げ茶の瞳は訴えるようで、縋るようで、求めている。
人に慣れているが人に飼われている様子ではない。
飼われていたらまずこんなみすぼらしい姿ではないはずだし、野生なら人に慣れているのはおかしい。
しかしある点を除けば野生でも人に慣れているケースがある。
『餌付け』
このキツネもそうなのだろう。
可愛いからと気まぐれに餌を与えられ、自分で狩るよりも遥かに楽で簡単に食料を得ることができることを知った。
そうして狩りをしなくなり、気まぐれで与えられる餌もなく、人の食べ物の毒素に侵される。
コレは人のエゴのなれの果て。
こうして人は自然を破壊していく。自らのエゴに自らの首を絞めながら。

キツネは未だに俺の足に擦り寄ってくる。
歩みに合わせて力の限りついてくる。
ここで諦めたら次がないことを悟っているかのようにそれはもう必死に。
その『次』が人が通る通らないの次ではなく、
足を止めるとキツネは弱弱しい表情の中に歓喜を浮かび上がらせた。
期待に満ちた顔、弾む気持ちを表す体。
しかし、残念ながら今の俺に食料など持ち合わせていない。
それすらも分からない人の被害者は懸命に俺に媚を売る。
薄汚れた体を必死に摺り寄せ、か細い声で鳴いて。
俺は一つ溜息をつくと寒さで身に寄せていたコートを脱いだ。
その行動にキツネはいよいよ餌にありつけると勘違いしたらしく瞳が爛々と揺れる。
しかし残念ながらキツネの意向に反して脱いだコートをそのキツネに被せて抱き上げた。

「今日から君はマサオミくんだ。」

その揺れる瞳。必死な姿。その玩ばれたキツネと重なる少年を思い、俺は無抵抗なキツネを抱えてまま歩みを再開した。



【とある狐の餌事情】





片手でキツネを抱えつつ、携帯を取り出すと俺はワンプッシュでホテルで待つ少年へと電話を掛けた。

「あ、正臣君?今さ、マサオミくん拾っちゃったから近くに動物病院ないか探して新しいコートもって迎えにきてよ」
「は、あんた何いってるんすか?」









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すーちゃんへの誕プレのつもりで臨也と子ぎつね正臣を書いていたはずなのにどうしてこうなった。勿体なからアップ。





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