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開く扉(正臨正)



「それで一体何の用なんですか」

そろそろ日付も変わろうかと言う夜深い時間帯。
次の日の朝も早くに呼び出されているので寝ようと布団に潜った頃合いを見計ったようにその電話は鳴り響いた。
朝早くに起きる原因でもある己の雇い主からの「これから事務所に来てほしい」といういきなりの呼び出し。
またロクなことでもない理由だと予想しながら拒否すれば後々が面倒で怖いことになるからと諦めが混じる溜息を洩らしつつ正臣は臨也の事務所を訪れた。玄関のドアを開け、訪問の声を掛ければ臨也は玄関まで律儀に迎えにきてくれ、その不自然な行動、優しさに警戒するようにキッと睨みつけた。
対して臨也は正臣を部屋へと上げながらこの後に要求する『お願い』への反応が易々と予想出来き、面白さを隠しきれないといった含み笑いを浮かべ正臣の質問に答えるように口を開いた。

「一緒にお風呂入ろうよ」

瞬間前を歩いていた正臣は勢いよく振り向くと臨也を見てそれだけの為に呼びつけたのかと疑惑と怒りのこもった瞳で睨みつけた。
そして、当然拒絶の言葉をその後にぶつけてくるであろうと正臣を臨也はどう侮辱し凌辱し言いくるめようかと頭を巡らせた。
より貶めて。
より辱めて。
より嫌悪されるには、どうしたらいいのかと。
しかし臨也の予想は思いもよらぬ方向へ外れた。

「いいっすよ。どうせアンタのことだからそんなしょうもない理由だと思ってました。」

諦めが見え隠れする据わった瞳。その瞳は過去に何度も同じことがあり、怒ることも面倒だと諦めた怠惰の表情を映していた。
肩を竦めながら「お風呂の準備してきますね」と正臣は歩みを進め、浴室のある二階へと続く階段を登り始める。
その背中に半分つまらなさそうに、しかし半分新鮮で面白いと言った正反対な感情を持った笑みを携えて反感を煽る様に声を掛けた。

「へぇ、今日は随分素直だね。本当はこういう展開を望んでいたの?それとも俺にその厭らしい身体を見て欲しいの?更にはその身体に触れ、弄り、持て余した熱を俺を使って吐き出させるつもり?」
「あぁ、臨也さん」

3〜4段階段を上ったところで臨也に声を掛けられた正臣は反応するかのように足を止め振り返る。
終始にやつき顔で明らかにこちらの感情を引き出そうとしている臨也の物言いを聞き流し、正臣は思い出したかのように淡々と口を開いた。

「臨也さんの我が儘も聞くんですからちゃんと俺の我が儘も聞いてくださいね。」
「…何?」

流石に正臣からの要求は想像していなかった臨也は笑みを消し去り、無表情で正臣を見上げ首を傾げる。
そこで初めて正臣はここにきて表情を浮かべた。
その表情は暗く、しかし確かに愉快さを含んだ普段の正臣からは決して見ることはない無邪気で残虐な笑み。
まるで自分を見ているかのようだと臨也は思った。
自分が故意に誰かを嵌め陥れそのあがく様子を観察する時の表情に似ていると思った。
そして正臣はその表情からやはり臨也の想像していなかった『我が儘』を口にした。

「臨也さんが…」





そして数十分後。湯船の準備が整い二人は約束通り入浴を共にした。
筋肉の程よくついた無駄のない肢体を惜しげもなく晒し、暖かな湯で仄かに火照らせる正臣と、その彼の『我が儘』を強制実行された―…手足にタオルを巻かれ、その上からビニール紐が結ばれた肌を労わった拘束と視界を奪い覆うネクタイ、普段は自分をこんな姿にしている少年に使っている猿轡を仕返しだと言わんばかりに使われた完全に身動きも視界も声も自由にならない姿で臨也は入浴して、させられていた。
浴室までは自分で歩いてきたが湯船に入った途端拘束され、下手に動き身体を湯船に沈めてしまえば正臣の助けなくては確実に起き上がることが出来ず死に至るだろう。
この姿に至るまで問答無用だった。
臨也は正臣への見解が認識が誤っていたことを思い知らされ、こんな姿にされた激昂よりもまだ自分の知られざる一面が隠されていることへの興奮が勝り自由にならない表情の下で楽しんでいた。
そして

「今の臨也さんになら、どんなことしても抵抗できませんよね。」

心底楽しむような愉快な冷えた声音。
通る声に五感で自由な聴覚がぶるりと震え

「イイコトしてあげますね」

臨也の中の何かの扉が開いた。






【開く扉】







「うわぁぁぁぁああああああああ!!!!!????」

勢いよく起き上がれば臨也の視界は真っ先に隣で驚く正臣の表情を捉えた。
覗き込むような形で自分を見つめ驚きに固まっている正臣。臨也は身構える様に正臣を見つめた。

「ど、どうしたんすか…?」

いつもの臨也からは想像できない悲鳴にも似た叫び声で起きたことに正臣は驚き、そして心配したように首を傾げながら様子を反応を待った。
臨也はいつもの自分の知っている正臣の反応に表情に幾許か安心したように緩く首を振るとまず自分が今どこにいるかを把握した。
見慣れた天井、見知った肌触り、嗅ぎ慣れた匂い。自室であり寝室。
今まで眠っていたことを思い出すと今までのは夢だったのかと言う疑問が頭を過ぎった。
しかし夢は自分の深層心理を表すともいう。あの夢が?自分の中にある欲求欲望だとでもいうのだろうか。まさか、と思うもののだからといって現実のものだというのも認めたくない。それならまだ夢の方がましだと頭を抱え、まず確かめるべく、心配そうに見つめてくる正臣へと声を掛けた。

「ね、正臣くん。変な汗かいちゃったし一緒にお風呂入ろうよ」

夢と同じセリフ。自分が知っている正臣ならばこの後の返事はと期待するように臨也は正臣を見つめた。
正臣は行き成りの言葉に驚いたが自分が嫌っている相手に心配していたことで臨也をつけあがらせたのだろ勘違いしたらしく、心配そうな表情は一転して嫌悪の混じる侮蔑した表情へと変わった。臨也の知っている表情だ。

「馬鹿言ってないでさっさと起きてくれますか?今日朝イチで仕事入ってるんでしょ」

蔑む様に苛立った言葉を吐き捨てると正臣は臨也に背を向けた。
予想通りの展開に臨也は安心するように口元に笑みを浮かべると調子を取り戻したかのように正臣に抱きついた。

「それともまた俺の『我が儘』聞いてもらえるんですか?」

そしてぼそっと愉しむかの様に呟かれた言葉を聞いて臨也は「え?」っと身をこわばらせた。









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何か書きたくって、でもこうパッとするようなネタがなくてついったで超短時間で募集した結果、その1。
みゅみゅちゃんリクエスト『臨正、いちゃいちゃお風呂』
風呂から切り込んでいったら着地地点を見事に誤ったお話となりました。下手すると正臨。
反省はしているが後悔はしていない。
くそ楽しかった。







あきゅろす。
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