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ハローハロー聞コエマスカ(臨リン)


閉まったカーテンの合間から零れる朝日が一筋、薄暗い室内に伸びる。
部屋の中央に位置するベッドの上で影が揺らいだかと思うと規則正しい電子音が鳴り響いた。
影が伸び、ベッドサイドにおいてあった目覚ましを止めると彼は視線を落とす。
自分の両サイドに眠る小柄な塊が二つ。
二つとも胎児のように足を折り、体を丸めて寝ている。
鏡に映したような相貌。蜂蜜色の髪に瞼の奥にはアーモンドの瞳が隠れている。
双子のようにそっくりなそれは色違いのパジャマを着ていなければ見分けはつかない。
臨也はその二つを一瞥するとぽつりと呟いた。

「…クロ、なんで下穿いてないんだ?」




♂♀




クロとシロ。
名前がないからと臨也がつけた安直な名前。
そっくりな容貌の相違点を名前にしただけ。つまり着ていた服の色を名前としたのだ。

それらが臨也の元へ来たのは突然だった。
臨也が外出から戻ってくると人一人入る大きな箱が室内に置いてあり、それはどうやら臨也の留守中に波江が宅配業者から受け取ったようで伝票が近くの机の上に置かれていた。
その宛先は紛れもなく自分の住所で、しかし大荷物が届く心当たりはない。
差出人が誰かと確認した臨也の眉間に皺が寄る。

「新羅…?」

旧友の名に首を捻った。
連絡もまばらな相手からのいきなりの大荷物。どういうことだと連絡を取った臨也はそこで、思いがけないことを頼まれた。
『ちょっとモニターを頼みたいんだ。暫くその子達の面倒を見てほしい』
ネブラが開発したAIだったかロボットだったか、受けるつもりのなかった臨也は聞き流していたソレを一週間預かってほしいという内容。
そうして紆余曲折を経て臨也が一週間それらの面倒を見るということになった。
マニュアルは同封してあり、わからないことがあったら聞いてくれと言うと新羅は電話を切る。
臨也は仕方がなさそうに包装紙を破り取ると箱を開け、その中に入っていたものを見て息を飲んだ。
中には膝を抱えて眠る少年が二人。
新羅の話から自分が面倒を見るモノは生き物を模したなにかだとは予想していたし、人かもしれないとも予想していた。しかしその姿が知己のものであるとまでは予想できずに眠るように起動を待つソレを見て臨也は早くも後悔した。



≪LINDA≫とマニュアルに書いてあり、個体名らしい名前は見当たらず、呼ぶ名がないのは不便だと適当に名づけてから一週間。
自分の元で働く少年に似ているというよりは模して造られただろうソレ。今日の夕方には新羅が迎えに来ることになっていた。
やっと解放される。
それを察しているのか、今日という日を伝えていないはずのシロとクロは臨也から離れようという素振りが見当たらない。
今朝のこともそうだ、普段なら別に用意した布団に二人は寝ているのに昨夜は臨也の気づかぬうちに潜り込んで一緒に寝ていた。
別れを惜しんでいる?
浮かんだ思いに臨也は一笑した。
機械に心なんてあるわけがない。
人のように笑い、人のように行動し、人のように話していても、それは人を真似ているだけだ。
機械は心を持たない、人にはなれない。
仕事をしながら今日までの≪LINDA≫との生活を思い返す。

起動時に、目があった二人は片方は元気よく、片方は緩慢と笑った。
必要なプログラムはインストール済みのようで、臨也が特別何かをすることもなく日常生活に溶け込んでいった。
出勤してきた正臣に、名前をつけて喜んでいるクロとシロに馬乗りになられた姿を見られたこと。
その姿に放心した正臣が我に返り侮蔑とともに通報しようとしたこと。
クロとシロを説明している間にその両者が正臣に興味をもって迫ったこと。
一緒に寝ると騒いだ夜。
一日出かけると伝えたら勝手についてきた日中。
小さな子供のように、朝甘えるように起こしにくるシロ。
シロが寝た頃合いに誘うように一緒に寝たがるクロ。

同じ姿でも、行動まではそっくりではない二体。

「「臨也さん」」

彼に似ている声が重なるように響く。
思い出という思考に珍しく浸っていた臨也ははっと顔を上げた。
目の前にはそっくりな表情をしたクロとシロが立っており、寂しそうに悲しそうに見つめている。

「何?」
「岸谷先生が」
「迎えに来ました」
「あぁ、そう」

クロとシロの表情に一瞬ぎょっとした臨也だったが何事もないように振る舞いながら二体が声をかけた理由を聞く。
返ってきた答えを聞いてもうそんな時間かということと、二体が迎えのことを知っていることに気付き、臨也は先ほどの表情を理解した。
別れを惜しむような表情。
まるで人と見間違う今にも泣きだしそうで、それを必死に我慢している表情。
人と変わりない彼らは今の瞬間何を思っているんだろうか。

「一週間ありがとう、臨也」

答えなどわからないまま、話しかけられた臨也は視線を滑らせて新羅を捉える。
視線の合った彼は肩をすくめたように笑い、次にクロとシロへ視線を向けた。

「ほぼ無理やり押し付けたことは謝るよ。だからそんな睨まないでよ。…にしても、ずいぶんと仲良くなったんだね。」
「謝るぐらいなら押し付けてほしくないんだけど…」

まぁいいや、っと臨也は新羅の視線を追うようにクロとシロを見た。
二体は二人から視線を向けられ困ったように顔を見合わせている。
そこに助け船を出すように、帰る準備をしておいでと臨也が促すと二体は少し寂しげに返事をすると二階へと走って行った。
二体の姿が見えなくなったころを見計らい臨也が一つ尋ねようとした瞬間、かぶせるように新羅が口を開く。

「ねぇ、新羅、あれ」
「≪LINDA≫がこれからどうなるのかっていう質問?」
「…」
「…そうだね、結論を言えば廃棄かな」

沈黙を肯定と受け取った新羅は淡々と話し始めた。
引き取った二体はここで得たデータを取り終えたら次に向けて廃棄となる。
廃棄といってもボディを処分するのではなく、≪LINDA≫というAIを一度リセットするものだった。つまり、臨也と過ごしたクロとシロを処分するということだった。
新羅は語る。淡々と。抑揚なく。ただ事実を。≪LINDA≫の行く末を。

「次はきっと、もっと人に近づいた≪LINDA≫が出来るだろうね。」
「ふーん」

何故闇医者である新羅がロボット工学に関わっているのか。
疑問に思えど言葉にすることはなく、臨也はどうでもよさげに曖昧な相槌を打って話を聞いていた。
新羅の話が終わったのを見計らったようにクロとシロが小さな手荷物を持って降りてきた。

「じゃぁ、協力ありがとう」
「もう二度としないよ」

クロとシロをつれ、新羅は臨也に一つ礼を言うと部屋を後にした。
最後、臨也を一瞥するクロとシロの表情はどこか縋るようで、助けを求めるようで。
それに気付きながら臨也は笑顔で二体を送り出した。






【ハローハロー聞コエマスカ】






二体を送り出し、一人になった部屋を見て臨也は自分が感じることはないと思った感覚に襲われた。
部屋を見渡せばクロとシロがいた軌跡が濃厚と残っている。
シロが読んでそのまま放置した雑誌類。
クロが好んで見ていた番組録画。
朝までそこで寝ていた乱れたシーツ。

一つ長い息を吐くと臨也は何事もなかったように仕事を再開すべく椅子に座り、パソコンのスリープモードを解除した。

「!」

すると画面に現れた黄色の黒白に臨也は目を見張る。
現実世界を認識できるのか、彼らは臨也を見止めて片方が元気よく、片方が緩慢に笑った。

「「ただいま!」」

ネットを介してだろう、いつの間にか侵入したプログラムに臨也は小さく微笑んだ。

「何してんだ、クロとシロ」







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信愛なるまししゃんへ、
ご め ん な さ い !

あと誕生日おめでとうございました!

ということでまししゃんへの誕プレにと書いた白黒リンダと臨也さん。
ひゅーまろいど?あんどろいど?な白黒リンダが臨也のもとへ送られてきて、少しの間一緒に生活する話を考えてたんだけど、書いてる本人が何を書きたいか見失った、ごめん、うん、ごめん。
白いほうがキュートで、黒いほうがセクシーって聞いたから目指そうとしたのにそもそもリンダほとんどしゃべってないとかどういうことなの。だれか説明求む。
いつかリベンジしたいけど、どうしても臨也には正臣と絡ませたくなる。






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