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消失(日々デレ)

※【残欠】の続き。BAD END




真夜中。臨也が起きると寝る直前まで一緒にいたはずの正臣が見当たらず、勝手に帰ってしまったのか考えていると階下から気配を感じ、ベッドから起き上がった。
波江は休みのはずだ。ならば泥棒でないかぎり階下の気配は一人だけ。
こんな夜更けに何をしているのかと臨也は欠伸を小さく零しながら寝室を出ると吹き抜け部分の手摺りから顔を覗かせ階下の様子を伺い見た。
するとやはり想像通り、明かりも付けず自分の使うデスクに座る茶色い頭を見付け小さく笑った。

「正臣君。何してるの?」

頭上からの声でやっと気付いたと言うように顔を上げる正臣は不機嫌面で、臨也を見つけると目が合うや否やそっぽを向くように目の前のディスプレイに視線を戻した。
しかし会話は続けるつもりらしく、

「誰かさんが邪魔してくれたお陰で今日の仕事が片付いてないんです。」

と、やはり不機嫌な声音で答えた。それからは臨也からの言葉もなく、彼の笑う気配のみで。
正臣もまた声を掛けてくるなと言うように口を詰むんだまま。
臨也の動く気配だけが静寂な室内に響き、ついに臨也が正臣の隣に立った時。臨也は先程ど同じ声音で同じ質問をした。

「ねぇ、何してるの?」

背中越しに臨也の視線が自分へ、自分の更に向こう―…手元のパソコン画面へと注がれていることに気付きながら正臣は振り向き、満面の笑みを浮かべ、

「そりゃ勿論―…」



♂♀




差し延べた手を振り払った。
かつての名とは別の名で呼ばれる少年は一人自室で愛する人と同じ顔をした青年を拒んだ時の事を思い出していた。
サイケと名乗るプログラムの言うことは全く理解出来なかった。自分が"リンダ"と言うことも死ぬと言うことも。
前者はサイケ自身も気には止めておらず一度だけその名でデレ臣を呼んだだけだった。
どちらかと言うとサイケが気にしていた事は後者で、デレ臣が彼の手を拒んだ後も何度かそれでいいのかと聞き直していた程に。
しかし意味も訳も説明されないのに初対面の言うことをほいほい聞くほどデレ臣の警戒心は役立たずではなかった。
日々也と接点があると知っていれば詳しい話ぐらいは聞いていただろうが、当の本人、日々也は後ろめたい気持ちがあるからなのかそれとも不安からなのかサイケが現れ、デレ臣に接触した時に叫んだ以外、関わろうとはしていなかった。
結果、デレ臣はサイケを拒んだ。
しかしサイケは拒まれることも想定済みだったのか差ほど取り乱すことはなく、何度か同じ質問をした後諦めた様に一度だけ悲しげに微笑んで去っていった。
ただそれだけの出来事。
なのにデレ臣は胸の奥を締め付けられているかのように痛み泣きそうだった。
サイケの最後の顔が頭から離れない。
リプレイするように最後のやり取りが繰り返し脳裏に過ぎる。
自分は間違った選択をしてしまったのだろうか。誰に尋ねることなく思う。
何度自問しただろうか。
ふと部屋のドアがノックされた。
コンコン、と小気味よい音が2回。日々也だと気付くとデレ臣は笑みを浮かべて立ち上がり、早々とドアを開けた。

「日々也」
「デレ臣。…、まだ彼の言うことを引きずっているのですか?」

ドアの先に見えた恋人にデレ臣は躊躇することなく胸へ飛び込んだ。甘えるデレ臣に愛おしそうに微笑み柔らかな茶髪を撫でる。
普段ならここまで人目を憚らず甘えることはない。
その理由を日々也は徐に尋ねれば迷う気配のあとデレ臣は小さく頷いた。

「大丈夫ですよ、何があろうと何が起ころうと君だけは守る。」

死にたいか死にたくないか。
サイケが始めに問い掛けた言葉を思い出す。それはまるでこれから殺されるような言い方。
デレ臣が考えていたのは寧ろそのあとのサイケの表情のことなのだが、日々也は気付かず物騒な言葉に思考を巡らせ眉を潜めている。
お互いの考えていることがすれ違っていると気付かないまま、二人は安心するように、安心させるように抱き合う。
そんな折り、ふとデレ臣は違和感に気付く。
視界の端に何かが映りこんだ。自分に異常があるのではなく、寧ろ相手。見上げるように日々也を見てデレ臣は目を見開き息を飲んだ。
透けている。
日々也の身体が実体味を失い透けて見える。まるで本来はそこには存在しえないかというように、日々也という個体が無くなろうとしていた。

「どう…」
「日々也!」

デレ臣の様子に日々也が緩く首を傾げ尋ねようとした瞬間だった。弾け飛ぶように光の粒子が散り、日々也というプログラムが姿を消した。
デレ臣が異変に気付いて数十秒しか経っていない。その僅かな時間で日々也が消えた。
発狂しそうな程顔を引きずらせ、呼吸を荒くするデレ臣もまた、自分の異変に気が付いた。
日々也を求めるように、散り消え行く粒子を追った自分の腕を見て固まる。
日々也と同じように光の粒子が纏わり付き、そして透けていた。
何が起こるか一度身を以って体験したデレ臣には明白だった。

「い…や…」

削除[デリート]。
忘れていた記憶の最期の光景が蘇る。
今と同じように徐々に身体の感覚が失くなり、消える事の恐怖も思い出す。
しかし抗う時間もなく、恐怖すらものの数秒で失くなっていく。
そして、前回のようにデータの欠片を託す暇もなく、リンダリンダ[シンデレラの義姉 ver.正臣]というプログラムが消えていった。


跡には何も残らない。





♂♀






眼下の今、まさに消えていく日々也とデレ臣の住まいだった城を見つめながらサイケは愛する人を救えず、見殺しにした事を再認識していた。
誰がやっているかわからない、アンインストール作業。真っ先に日々也とデレ臣が選ばれたようだとサイケは思いながら何を考えているか分からない無表情で砂上の城のように消えていく城を見つめている。
日々也もデレ臣もサイケになら救えたかもしれない。
プログラムと言う概念から外れた異常体[ウィルス]に、正常な指示が届くはずがない。
日々也をデレ臣をプログラムからバグ、ウィルスに変異されればこのような事態にはならなかったであろう。
しかしサイケはしなかった。
デレ臣に拒まれたからと言うのもあるが終わりない消えたくとも容易く消えることの出来ない存在に愛した人を自分の身勝手でしたくなかったのだ。
次は誰だろうか。
このパソコンも廃棄されるだろうかと考えながらサイケはただただ白く塗り潰されていく世界を見つめ続ける。
最期まで見届けるのが、恋人を見殺しにした償いと言うかのように。



ふと、サイケの視界の端に白以外の単色が映り込む。
白に良く映えた黄色で、もう二度と見ることはないだろうと思っていた色合い。
視線を向ければやはり二度と見ることはないだろうと思っていた顔。
その姿を確認すると哀しそうに嬉しそうにサイケは微笑み、その愛おしい名を呼んだ。

「まさかリンダが来るなんて思っても見なかった。正臣くんが作れるとは思えないし、臨也が手を貸したとも思えない。…君は誰の差し金?」

意外そうに、しかし受け入れると言うかのように、サイケは両腕を広げ、リンダの姿をしたソレを迎えいれた。
ソレが何かと知りながら、抗うこともなく。






【消失】







「何をしているの?」

臨也の視界が捉える、画面のメッセージ。
いくつもの『アンインストールが完了しました』のメッセージボックスに苦笑混じりに口端を釣り上げる。
困ったような、苛立ったような笑み。
さして正臣は気にすることもなく、次の作業に移っていた。
USB端末をパソコン本体に繋ぎプログラムをインストールしている。
臨也が何をするつもりかと正臣を止めようとするがインストール完了の方が早く、プログラムが起動した。
『ウィルスバスター』の表示を見て臨也は目を見開く。

「さすがに俺にはサイケのようなウィルスを駆除するプログラムは作れないんで帝人に作って貰いました。」

臨也の意表をついたことが嬉しかったのか、簡単に自分の行動を説明する正臣。
起動してしまったプログラムは止めれそうになく、臨也は諦めたように正臣に尋ねた。

「どうしてこんなことを?」

臨也の質問に正臣はキョトンとした後、あぁ、と一人納得したかと思うと数時間前の再現をしてみせた。

「臨也さん、言ったじゃないっすか。例えプログラムでも俺を渡さないって。つまり…そういうことですよ?」

正臣に浮かぶ表情は何処までも何処までも無邪気で、そして残酷な笑みだった。





‐‐‐‐‐
最初ちょこっと書いた話がここまで続くなんて誰が思っただろうか。
しかもBAD END…つまりHAPPY ENDもあるってことさ!まじか!
HAPPY ENDはBAD ENDの続きというわけではなく、残欠の続きです。
どっちがいいかまししゃんに聞いたら両方待機されたんだぜ…
あと日々デレから始まったはず名のになんでサイリンや臨正に寄り道してんだ…だれか教えてくれ








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