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通い猫(帝正)



するりと視界の端で白い影が動いた。無意識に視線を動かせばそれは一匹の白い猫で、丁度通りから家屋同士の狭い隙間へ潜り込もうとしていたところだった。
人の気配に気付いたのか、白猫は振り返る様にこちらを見た後慌てて人の手の届かない隙間へと逃げ込んで行った。
そんなありふれた日常を見送りながら猫に気を取られ思わず止めていた足を再び動かし始めた。

池袋へ越してきて早数ヶ月。
都会の割には横道に一本二本入れば駅周りとの喧騒がより浮き彫りになる閑散とした住宅街へと入る。そこには人も車も少ないせいなのか、住民が餌付けでもしているのか、飼い猫を放し飼いにしているのか、猫の姿が良く目についた。
無防備に眠る猫もいれば先程の様に人に驚き逃げる猫もいる。だが一貫して殆どの猫は野良猫の持つ不潔や毛艶の悪さなどといったものが見当たらない。やはり何処かで飼われているか、十分な餌をもらっているかなのだろう。
そんなどうでもいいような猫事情を考えながら帝人は家路を急いだ。
思わず猫へ意識が向いたのは他でもない帝人自身がその例外では無かったからだ。

ある日、いつも通り学校から自宅であるアパートへ帰るとそのアパートの前でうずくまる影を見付けた。放っておく事も出来たが完全にそれが何かと理解してしまった帝人には見捨てると言う選択肢を選ぶ事は出来なかった。
みすぼらしい、ボロ雑巾の様な子猫。乳離れはしたものの普通ならまだ親猫と行動を共にしているような幼い猫。
目が合い助けを求めるかのように掠れた声一鳴きしたのが極めつけだった。

そうして帝人はその子猫を助け、子猫は元気になった頃を境に家をふらりと出て行った。しかしそれで縁が無くなった訳ではなく何日かに一度顔を出し餌をせがむ立派な通い猫と化していた。気付けばその通い猫は帝人が学校から帰ってくる時間帯に毎日家の前で待っており、帝人のちょっとした楽しみと安らぎにもなっていた。

そして今日も例外なくその通い猫は帝人の部屋の前でちょこんと座り込み待っていた。

「今あげるから待ってて」

にゃーにゃーと帝人の帰りが待ち遠しかったのか足元に擦り寄る猫に思わず話し掛けながら帝人は部屋のドアを開け、玄関近くに予め用意してあった缶詰と皿を手に取った。

「今日もいい子にしてた?」

餌を食べ始める猫に話し掛けながら、帝人は部屋の奥へ視線を向けた。
猫は食べながら帝人の問いに答える様にふにゃふにゃと鳴いているのか食べているのか良く分からない声を発している。
そんな可愛いげある猫に優しげに微笑みながら帝人は再度同じ問いを部屋の奥へと掛けた。

「いい子にしてた?」

家具らしい家具などない室内。申し訳程度にレンジが、我が物顔で鎮座するパソコンが置かれている微妙に生活感のない室内はカーテンが固く閉ざされ、部屋の真ん中で影がもぞりと動く。
後ろ手でしっかりと縄で結ばれた手足。目元はアイマスク、口元はガムテープで閉ざされ誰が見ても監禁されていると言った風体の少年が転がっていた。

「正臣。」

帝人の声に反応するかのように視界の閉ざされた目を声がした方へと向け、そしてふっと反らした。






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聖地巡りの副産物







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