数よりも想い(臨也誕) 5月3日。 新宿のとあるマンションの一部屋。夜遅くまで作業する少年と女性に彼は労わる様に口を開いた。 「残業のお礼として何か食べるかい?この時間だといろいろ限られてくるけど……まぁ、何とかしてあげr」 「遠慮しておきます。」 「口を動かす前に手を動かしたらどうなの。」 「…………。」 世間は大型連休な上に今日があと少しで終わりそうなほど遅い時間帯。二人は苛立ったように己の上司、折原臨也の誘いをばっさりと切り捨てた。 それ以来は重い空気が流れ、沈黙が漂う。 臨也もこれ以上仕事以外の事で口を開けば二人からどんな毒舌が来るかと思うと迂闊には口を開けなかった。毒舌など慣れたもので、堪えるほどではないものの殺気立った二人を刺激するのはさすがによろしくないとは感じ取り口を閉ざしている、という状況だ。 タイプ音、紙を捲る音、声などは存在しない空間。 カチカチと時計の音だけ響き渡る。 重い重い空気。 それを緩和するものはなく、各々に目の前に仕事に集中している。 臨也がふとPCに表示させる時計を見ればもう日付は変わり、時刻は0時半を示していた。 だが終わる雰囲気のない仕事。ストレスがたまっていくであろう助手。 臨也は溜息をついて言葉を投げかけた。 「今日はもう帰っていいよ。かなり遅いしね。あ、正臣くんはこんな時間に未成年が出歩くのは危ないし、とまtt」 「では帰りますさようなら。」 「こんな遅くまで働かせたのだから明日は休みでいいわよね。」 「^q^」 あと少しぐらいならば一人で出来るだろう。そう判断した臨也は二人に帰宅の許可を出すと仕事をしていた手を止める二人。 そしてテキパキと手際よく仕事にキリをつけると形だけの挨拶をして帰っていく。 二人を横目で見送り、その姿が完全に見えなくなると臨也は小さく呟いた。 「はぁ、やれやれ。予想はしていたけど……彼らが祝ってくれるわけ、ないよねえ。」 机に立てかけられたカレンダー。今日の日付を確認しながら肩を竦める。 5月4日は折原臨也、自分自身の誕生日だ。波江は知らない可能性があるかも知れないが正臣は2年前に教えてあるため確実に律儀な彼は忘れることはない。プレゼントまでは期待していないが言葉だけでも、と思っていたが今まで自分がしてきたことを顧みればこれもまた仕方がないかと肩を竦めた。 嫌っている相手をわざわざ祝うなど、余程の物好きか何か企みがあるのか。もしくは、…・・・・。 しかし自分が彼にどれだけ嫌われているか知っているため、過度な期待はしない。 誕生日のことは忘れ、臨也は仕事に集中することにした。 許可はしていないものの、あの調子ならば本当に波江は明日仕事には訪れないだろう。正臣も、来たとしても定時で上がっていってしまうだろう。そうならば予め仕事は片づけておいた方がいい。 PCと見つめ合い、臨也がベットへ入ったのは明け方だった。 深い眠りに落ちそうになる寸前、臨也は強制的に目を覚ますことになる。 訪問を知らせる電子音。 マンションのエントランスではなく玄関からのもので、この時間に誰だと思いながら無視をするかと考える臨也。 しかし玄関からのものであるならば少なくとも知人であるために、完全に無視しることは躊躇われる。 ――万が一波江さんだったら面倒だしな……。 欠伸を噛み殺しつつ、臨也は玄関へ赴き、ドアを開けた。 するとそこには黒い影が立っており 「……?君がアポもなしに訪ねてくるなんてめ」 その影から腹に攻撃を食らい、そしてまとわりつく影に身動きを封じられ、臨也は部屋から強制的に連れ去られた。 そして臨也が目にするものは、彼の考えでは予想できない光景だった。 連れて来られた新羅の部屋。 そこには家主の新羅を始めセルティ、帝人、杏里、正臣、門田、遊馬崎、狩沢、渡草、波江、静雄までもいる。 予想外なメンツに、そこに並べられた様々なモノに目を見開き驚いていると新羅が近づいてきて臨也に話し掛ける。 「正臣君からの提案でね。一人淋しく誕生日を過ごすであろう君への誕生日プレゼントだそうだよ。」 「あ、し、新羅さん!」 詳細を説明する新羅を止めるように正臣が近づいてくる。そんな彼を捕まえて臨也は毒気を抜いた素直な笑顔を受けべて礼を言う。 「ありがとう。」 「 」 ♂♀ 正臣が何を言う前に臨也の意識は浮上した。 机に頬杖をついて寝ていたようで、バランスを崩し支えていた手からずれ落ちた所で起きたようだ。 スタンバイモードのPCを見てだいぶ寝ていたことに気付く。それと同時に今までの事が夢だったことに気付かされ、そして何処か納得する。 ――そうだよねぇ、わざわざ正臣君がパーティを開いてくれるわけないし、他のメンツはともかくシズちゃんがあの場にいるわけないよね。 都合のいい夢だと思いながら、無意識にああいう展開を望んでいたのかと自分自身に吐き気を覚えながら仕事を再開する前に眠気覚ましにコーヒーでも飲もうかと立ち上がる。そこで初めて臨也は気付く。 立ち上がった際に落ちたブランケット。寝室のクローゼットで眠っているはずのそれに臨也は目を見開いた。 そして、人の気配があることに気付く。 「…………まさおみ……くん……・・?」 「あぁ、起きましたか。おはようございます。鍵空きっぱなしでしたよ。」 TVの前に置かれたソファー。そこで雑誌を片手に座っている正臣の姿に臨也は疑問形で彼の名前を呼んだ。 視線を雑誌に落としたまま正臣は何事も無いように臨也に挨拶をすると、今日の仕事内容を尋ねる。 臨也もその言葉で何故彼がここにいるのかを把握し、少しだけ期待した自分を殺したくなった。 ――わざわざ祝いに来てくれるわけないよね。 しかし、掛けられていたであろうブランケットは彼の優しさには変わりなく、それを拾いながら彼は正臣を朝食へ誘った。 「どう、仕事を始める前にどこか朝ご飯食べに行こうよ。」 「奢りっすか?」 「いいよ、何食べたい?」 「駅前の新しくできた喫茶店のモーニング。」 雑誌から顔を上げてぶっきら棒に答える正臣に臨也はいつもと変わりない彼の様子に苦笑を浮かべながら彼を連れ出した。 【数よりも想い】 そして喫茶店でモーニングを頼み、その食後に出されたものに臨也は目を丸くした。いや、詳しく言えばそのあとに正臣の言葉に。 「よかったすね。ケーキ1個は食べられて。」 デザートにと出されたショートケーキ。正臣は何事も無くそれを口に運びながら、ポツリと消え入るような声で呟いた。 「誕生日、おめでとうございます。」 ーーーーーー 臨也さん、誕生日おめでとう!!!!!!ふっ、誕生日思い出したのが前日当日ってどういうことなのさ。全くネタを考えていなくてだな、……まぁ帝人の時よりは早めに書きあがったので、うん、まぁいいか。臨也だし。 つか、帝人の時といい、これ、祝ってるのか………?まぁ、いいか。臨也だし。← 祝って欲しくてそわそわする臨也とか残念で好きだ。 |