過ぎ行く時間(来良) 秋が深まる10月。 落葉の中を帝人と杏里は談笑しながら歩いていた。 「いきなり呼びだして一体何なんだろうね。」 「メールが届いたきり連絡が取れませんが…何かあったのでしょうか…」 「正臣の事だからどうせ二度寝してるんでしょ。心配するだけ無駄だよ」 「しかし本を必ず持参することって何なんですょうね…?」 今朝早くに二人の元に届いた一通のメール。 差出人は二人の友人、紀田正臣。彼から届いたメールは至ってシンプルなもので10時に自分の家に集合と言う理由も相手の都合も考えていない内容だった。 用がないとはいえそのメール以降音信不通の友人の身勝手さには慣れているとは言え呆れが尽きないと帝人は溜息交じりの嘆息を零した。 しかし休日、用事がなければこうして会ったり遊ぶこともない帝人と杏里からすれば彼の身勝手さも感謝する事でもある。休日をただ費やすより仲の良い者で集まって騒ぐ方が良い。騒ぐのがあまり好まない二人だが、正臣と騒ぐのはまた違った。予想を超えることをやってのけたり計画していたり…楽しく飽きない。 今回は何が待ち構えているのかと予想しながら二人は正臣の部屋へ急いだ。 出迎えた正臣に案内されるままに部屋に入る帝人と杏里。部屋でくつろぎながら今日は何を思いついたのか呆れた口調で帝人が尋ねれば正臣は予想していたのかニヤっと悪戯を思いついた子供の様に笑った。長年の付き合いである帝人はその笑みを見て碌なことを考えてないなと肩を竦めながら正臣の返答を待つ。 「よくぞ聞いてくれました。今は何月でしょう。そう、10月です。暦の上では秋です。さぁ、問題です、秋と言えばなんでしょう?」 「秋…?紅葉…ですか?」 「惜しい!もみじ狩りもいいけどこの辺りじゃ目ぼしい行楽地もないしな。」 「読書、芸術、食欲の秋ともいうけど…」 「そう、それ!」 「どれ」 「読書の秋に決まってる!」 「あー読書の方なんだ。正臣の事だから食欲の秋とか言って何か作らせるのかと思った。」 「帝人から見た俺ってどんなイメージよ!?」 「能天気。年中春。トラブルメーカー…」 「おま…普段からそんな目で俺を見ていたのか」 「まだあるよ?」 「もういいです」 不意に問われた疑問にキョトンとしながら何が関係あるのかと思いながらも律儀に答えていく二人。そこで正解を引いたらしく正臣は上機嫌に帝人に指を指した。 そして帝人からの容赦ない言葉の攻撃を受けながらも正臣は今日の目的を告げた。 「読書の秋なのでみんなで本を持ち合って読書にいそしもうと思います。」 「うわ、正臣にしては珍しくまともな意見だ…何か変なものでも食べたの?」 「帝人、そろそろ俺泣くよ?」 そんな日常的なやり取りを経て、言われるままに二人は各々に読書を始めた。言いだしっぺである正臣も本棚から適当に本を選ぶと壁にもたれかかり読書を始める。 読書をする正臣が珍しく、どうせ漫画でも読んでいるのだろうと自分の本を読んでいるふりをして帝人は正臣の様子を伺った。すると帝人の予想は外れ、正臣は薄いながらも挿絵もない小説を読んでいるではないか。本当に今日は珍しいことばかりだよ目を見開きながら帝人も目の前の本に意識を集中させるのであった。 それから1時間。静寂包む部屋の沈黙を破ったのはこの読書会を開いた張本人だった。 「飽きた。」 そうだけ言うと正臣は寝ころんで携帯を弄り始める。 正臣の声で本から視線を上げた帝人と杏里。苦笑を浮かべる杏里とこのことを予想でもしていたのかやっぱりと言う表情の帝人。帝人は読みかけの本にしおりを挟むと床へ置いた。 「飽きたって…言いだしっぺが何を言ってるのさ…」 「だってただ本を読んでいるだけだぜ?何が楽しいんだっていうの」 「1時間前の君は一体何がしたかったの…」 「別に」 肩を竦めながら寝転がる正臣に近づく帝人は目の前に友人の言動が解せないでいる。 わざわざ自分たちを呼びだして、何をするわけでもなく各々の時間を過ごし、最終的には言い出したことを放り出す始末。少し身勝手すぎるのではないだろうか。 背を向けたままの友人に帝人は眉間に皺を寄せた。 「正臣」 「休日に暇だっったから、何かと口実つけて呼んだだけ」 これは流石に身勝手すぎるだろう。一言言ってやらなければ気が済まないと口を開く帝人の言葉を遮る様にポツリとつぶやかれた言葉に一瞬言葉を失った帝人。 杏里も二人のやり取りが気になるのか本を置き、心配そうに見ていたが正臣の言葉を聞き戸惑っていた。 「…言い方が悪かった。杏里とラブラブな休日が過ごしたかった。帝人はお情け」 「ふえ!?」 「正臣!」 一瞬の沈黙にらしくないと思ったのか正臣は振り返り、上体を上げると姫を迎える王子の様に杏里に手を伸ばした。 その言動に今度は違う戸惑いを浮かべる杏里は悲鳴にも似た声を漏らし、まじまじと正臣を見る。この手を取るべきなのだろうか、しかし…困った表情のまま固まる杏里を見て帝人は咎めるように正臣を呼んだ。 「なんだ、羨ましいか。しかし杏里はもう俺の魅力に落ちてんだよ」 「勝手なことを言って園原さんを困らせないの!」 先ほどまでの雰囲気を一掃し、まるでコントのような帝人の正臣の会話が交わされる。 それを聞きながら、正臣の言葉はどういう意味だったのだろうかと考える杏里だった。 【過ぎゆく時間】 「と言うわけで秋と言えは食欲の秋。ってことで昼は杏里の手料理だ!」 「結局そうなるんだ。てか初めからそれが目当てだったとかじゃないの」 「ふふふ…ばれたか」 「やっぱり…」 「わ、私料理は…」 ‐‐‐‐‐ しらの!誕生日おめっと! 今回は珍しく余裕で書き終わったんだぜ。奇跡だ。 しかしほのぼの来良を書くつもりが帝人と正臣の掛け合いが楽しくて本筋を見失った件…てへ☆ こんなものでよかったらもらってやってください(`・ω・´) 勿論書き直し、苦情も受け付けてるよ!正直どうしてこうなったか私も知りたい。 |