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夏の初体験(帝正)




「お願いします」

駅前や人通りの多い路上などで配られるティッシュやチラシ、クーポン券その他諸々。
駅前を歩いていた帝人に差し出されたのはそんな配布物と同じだった。
ただ、相違点をあげるとするならば、

「ま、正臣?!」
「よ、帝人。よく来たな。」

その配布人が友人だったことぐらいか。



♂♀




「なんで僕まで…」
「ちゃんとバイト代も入るんだしいいだろ?」

新店の宣伝目的だろう、ロゴの入った上着を来た帝人と正臣。
あれから正臣は狙った獲物が漸く来たとばかりに帝人を手早く拉致り、瞬く間にバイト先の先輩であろう男性に「助っ人」だと紹介した。
予め正臣から話を聞いていたであろうその男性は、帝人に礼を言うと手際よく準備を済ませ上着とチラシを渡した。簡単な説明をしたあと詳しくは正臣に聞けばいいと言い残すと彼は彼の持ち場へと戻っていく。
状況を理解する暇も、状況を否定する隙も与えられず、いつの間にか帝人は正臣のバイトの助っ人と借り出されていた。
そうしてチラシを目の前に通る人へ人へと渡しながら暇を見ては正臣に愚痴を言う。
帝人がこの場所を訪れたのは偶然ではない。
正臣にメールで呼び出され、赴いたらこれだ。つまり計画的な行動であり、それがまた帝人の逆鱗に触れたのだ。
初めから素直に誘えばいいもののこの友人は。
正臣に対しては何処か無表情な帝人に当人が参っているかと思えばそうでもなく、平気な顔をして、しかもバイト中だというのにチラシを渡しながらナンパをしている。大体は苦笑いでスルーされており、その度に帝人から冷たい視線を貰っていた。

「正臣、真面目にやって」
「おいおい。これは絶好のチャンスだろ?バイトをしながら尚且つ女の子に声をかけられる。正しく一石二鳥!あ、お姉さーん!今度そこで開店する居酒屋なんすけどどうっすか?」

帝人が注意しても言い訳するだけで止めようとしない。しかし着実に正臣が持つチラシは減っていき仕事もちゃんとこなしているので先程の男性に言い付けることも出来ない。
はぁ、と溜息を漏らしながら正臣に構うよりさっさと終えてしまおうと考え直せば「お願いします」と色味なくチラシを配っていく。
しかし無視されるか断られることが多く帝人の方は中々数が減っていかず、帝人は肩を竦めた。
何度目かのチラシを断られたとき、帝人が持っていたチラシの束が奪われる。

「え、」
「そんな辛気臭い顔で配ってちゃ貰ってくれるものも貰ってくれねーぞ。ほら笑顔笑顔!」

振り向けばにぃっと笑う正臣と目が合い、その腕の中には帝人の分のチラシが半分以上ある。逆に正臣の分はと言うと配り終わったらしく見当たらない。先に配り終えた正臣が手伝ってくれる、ということだろう。

「正臣、それ、」
「俺の分は終わったし、優しい正臣様が手伝って差し上げよう。」

帝人が指さし口を開くと先回りするように正臣はチラシを帝人から遠ざけ言った。
冗談だろうが、何処か恩着せがましい言い方に帝人はクスリと笑いすかさずツッコミを入れる。

「手伝うも何も正臣が先に巻き込んだんでしょ。ならよろしく。」






それぞれの割り当てられたチラシも配り終えれば手渡されたバイト代。
それを財布の潤いにしながら二人は公園で休憩していた。

「ほい。」
「…?ありがとう?」

ベンチに座り休憩していると飲み物を買ってくると出かけた正臣が戻ってくる。その手には宣言したものとは少し違ったものが握られており、買うものを変えたのかと首を傾げていると同じものを差し出され思わず受けとった。
鼻孔を擽る甘い香り、冷たい感触。しかし暑さで僅かに溶けはじめている、ソフトクリーム。
垂れてしまわないようにペロペロと舐めながら帝人は何も言わずに正臣を見つめた。

「文句いいながらも付き合ってくれてサンキュー。それ、礼。バイトは、さ、別に一人でも何とかなったんだけど」

独白の様に紡がれていく理由。別段、問われたわけでもないそれは懺悔の様で。
一度勿体つけるように切れた言葉を続きを待つように帝人は正臣を見つめ続ける。

「一人じゃつまんねーな、って。やっぱり帝人が居ねぇと。」

告白の様に照れた様に笑う正臣に帝人も釣られたように照れ、目を伏せると単調に「そう」とだけ答えた。




【夏の初体験】





「だからバたイトするときは一緒とこやろうな!」
「…ごめん、僕パソコンでバイトしてるから間に合ってる…」








‐‐‐‐
正帝のような帝正が好きです。
さてさて、この前誕生日だったひなたさんに誕生日プレゼントです!遅くなってすみません(>_<)
そしてカプ以外は自由だったのでこんな感じになりましたが…如何でしたでしょう?
気に入らなければ書き直しますのでお気軽に言ってくださいねー!では誕生日おめでとうございました!





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