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さよならメモリーズ(来良)
※卒業式、その他諸々捏造。




「卒業生代表、園原杏里。」
「はい。」

静寂と寂寥に包まれる体育館。
全校生徒が各々に思いに耽っている中、一人の少女が泰然と立ち上がり生徒の間を縫うように歩く。
丁度、卒業生と在校生の境に置かれたマイクの前で立ち止まると一礼をして、手にしていた一枚の紙を広げた。

「送辞、―――…」



♂♀



帝人は杏里の声を聞きながらその卒業生に向けられた言葉に連想するようにこの高校生活三年間を振り返っていた。
生まれてこの方、修学旅行にも出席せずに地元に引きこもっていた15年間。しかし二年前、友人に誘われるままに新しい生活に踏み出した。高校入学を機に池袋へ引っ越した帝人は友人、正臣と再会し、そして彼の知人や高校で新しく友達を作り世界を広げる。
しかし2年生になる前にとある一件で親友が失踪と言う形で失い、彼らの歯車は少しずつ狂い始めた。
正臣を信じて待っていた帝人だったがGWの小規模の抗争によりその思いを歪めていく。ダラーズと言う力を持つ帝人は、正臣の居場所を作り始めたのだ。同時に打ち明けられない秘密を持つ杏里にも安心できる居場所を作ろうと一人奔走していく。
そうして表側から裏側の世界を引っ掻き回し始めた帝人は粟楠会から目を付けられる。しかし帝人の為に動き始めていた正臣達黄巾族の活躍によりその火種は大きくなる前に鎮火した。だからと言って帝人の行動が改善されたわけではない。帝人は『正しいこと』をしている信念の下、動いているのだ。誰が何と言おうとも行動を改善するつもりはなかった。しかし正臣も諦めることはなかった。何度も帝人にぶつかっていき、帝人を救うために奔走した。
お互いがお互いの為に奔走する二年間。
気付いたら今日と言う日を迎えていた。
しかし何も進展がなかったわけではない。
結果は…


「これを在校生の皆様に送る言葉とします。」

杏里の締めの言葉に帝人ははっとしたように顔を上げた。
自分の思考と言う思い出に落ちていたらしく全く杏里の話を聞いていなかった。わざわざ長い話を好き好んで聞く物好きもなかなかいないだろうが、今話していたのは自分たちの友人の杏里だ。申し訳ないことをしてしまったと心の中で謝りながら席に戻っていく杏里を視線で追った。耳には在校生の答辞が届き始める。


♂♀




卒業式も終わり、最後のHRも終わった放課後。
仲の良いメンバー同士が帰りに遊びに行く話を通りすがりに聞きながら帝人は校門で杏里と並んで立っていた。
二人特別何かを話しているわけではなく、咲くにはまだ早い桜の木を見つめている。二人、その瞳には何を映しているのだろうか。2年前の事か、それとも最近の事か、もっと昔の互いが互いに知らない時期の事か。
不意にポツリと帝人が呟いた。

「正臣…今、何してるかな……」
「紀田君…ですか………」

二人の共通の友人の名が零れ、杏里は敏感に反応した。パッと視線を帝人に向け、帝人もその視線に気付けば今にも泣きそうな表情で困ったように笑って見せた。
何故そんな表情をしているのか杏里にも何となくだがわかり、どう答えていいか迷う様に視線を彷徨わせる。

「大丈夫ですよ。帝人君。私たちはいつでも傍にいますから。」
「…ありがとう。こんなとこ正臣に見られたら怒られちゃうね。ごめん。」
「いいえ…。」
 
溢れ出てきた涙をぬぐい、帝人は気丈に笑って見せた。
これ以上杏里に心配かけない様に。
そうしてまたしばらく沈黙が流れ始めたその時、新たな声が加わった。

「おっまたせ!」
「もう遅いよ。」
「お帰りなさい。」

声と同時に帝人の背中にのしかかった重み。
肩越しに振り返れば先ほどの話題の少年が満面の笑みを携えてそこには立っていた。いや、帝人に抱きつき、凭れかかっていた。

「正臣」
「紀田君」

帝人と杏里の大切で大事な友人。
一度は退学し、そして様々な経緯を経て復学した紀田正臣が帝人と杏里と同じように制服の左胸に造花を飾り、片手には卒業証書をもって。
一緒に卒業することが出来た友人を目に、帝人と杏里は先ほどまでの陰鬱な雰囲気を一掃し、正臣と同じ満面の笑みを向けていた。

「いつまでほっつき歩いてるのさ。」
「しゃーねーだろ?俺の卒業を悲しむ全校の女子諸君が俺の制服のボタンを争ってだな…」
「√3点」
「マジですからね、帝人さん!?」

文句を言う帝人に正臣は見せつけるようになくなっている制服のボタンを見せつけた。そこには正臣の言う通りボタンは一つもついてはおらず、改めて友人が持てることを理解した。よく見れば証書が入ってるカバンからはプレゼントらしき包装物も見える。
自分とはやはり違い人気者なんだなと、どう反応していいか困っていると帝人の前に何やら差し出された。
何だと、視線を上げるとそこにはボタンと普段はパーカーを着ているためつけてはいないネクタイが握られていた。

「正臣…これは?」
「?」
「ボタンは杏里、ネクタイは帝人…ほら、交換っこしようぜ?」

にかっと太陽の様に笑う正臣に帝人と杏里は呆然と正臣を見つめた。
正臣曰く『友情の証』
卒業式のイベントでもある好きな人の第二ボタンを貰う。ネクタイ、リボンを交換する。そういった類のもので、正臣はそれにあやかり持ち出した。

「もちろん杏里にやるボタンは第二ボタンだぜ。俺の想いと一緒に…」
「はいはい、相変わらず頭の成長はしないよね、正臣って。」
「ひど!?それは酷いですよ帝人さん!?」
「でも、まぁ…そういうのは嫌いじゃないよ。はい、ネクタイでいいの?」

杏里にボタンを差し出す正臣を三年前と変わらない冷たく呆れた視線を向けて帝人はネクタイを外す。ギャアギャアと喚く正臣をよそに外したネクタイを見つめ、正臣の想いに笑みを浮かべた。それを気付かせない様に振る舞いながらネクタイを正臣へ差し出す。
そんな帝人と正臣の会話を聞きながら杏里は終始くすくすと笑みを浮かべ、正臣から差し出されたボタンに戸惑いを見せていた。そうしているうちに帝人もジャケットのボタンをむしりとると同じように杏里へ差し出す。

「園原さんにはこっちだね。」
「お、帝人もそれとなく第二ボタンかよ?おませさんめ!」
「だってこういうのは一番大事なボタンとかの方がいいでしょ。」
「む…帝人のくせに照れないだと!?」
「正臣と違って成長しているから。」
「だからひでぇって帝人……」

からかう正臣を軽くあしらう帝人。三年前には見られなかった二人に杏里は嬉しいような悲しいようなどちらとも取れる曖昧な表情を浮かべ、そして二人の男性から差し出されるボタンを受け取った。

「ありがとうございます。私も…」

自分も彼らに何を渡してあげたい。杏里は正臣達と同じようにリボンをほどき、制服のボタンを外して二人に差し出した。
杏里から差し出されたその二つのアイテムを正臣はボタンを、帝人はリボンを受け取り、そして三人見合わせて笑った。

「おし、友情の証完成。」
「うん。」
「はい」

満足げに、幸せそうに笑った。
今までも思い出を懐かしみ、そこから得たゆるぎない友情を確かめ、何物にも変えることのできない証を手に

帝人は、正臣は、杏里は

幸せに笑った。





【さよならメモリーズ】







そして、池袋の日常は今日も変わらない。
バーテン服の男性が真っ黒い男を追いまわし、公共物を破壊したり、
都市伝説と謳われる黒バイクが音もなく走りすぎていったり、
大学へ進学した仲良し三人組が、講義のあとどうするかを話し合い「ナンパ」と即答した青年をばっさり切り捨てる青年のやり取りを見て笑う女性。
あの日から何年経とうとも、何が起ころうとも…池袋という街は変化を続け、そして何も変わらない。
そう、ゆるぎなく、変わらない友情も………。









‐‐‐‐‐‐‐
しらのちゃんへの卒業お祝い小説!っていうことで内容がリクのこともあり卒業式ネタなんですが、今はもう…えぇ、帝人が池袋に来て来良に入学している時期ですよね、知ってます。
イベントとオリジ小説の執筆で早こんな時期…アハハ。
まぁ本人には許可もらってるし。
卒業式も含め、色々捏造と希望です。今の事が片付いたら正臣は沙樹ちゃん連れて来良に戻ってくるんだろ!そうだと信じてる!
つか…卒業式なんてもう何年前の話だよ…と書きながら思ってました、はい。











あきゅろす。
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