ショウシツノソノサキ(日々デリ) 『ギセイノソノサキ』の本編。読んでなくてもだいたい分かる。 彼らは気付いていた。 数を重ねるごとに違和感を覚え、そして気付く。 自分の中に『何か』が足りなくなっていくことを。 だが、彼らはやめようとはしなかった。思いつきもしなかった。 自分たちの行動は自分の持ち主達のためと同時に自分の大切なものを守るためのこうどうだったから。 大切なものを守るためならば自分などどうなってもいいという自己犠牲。その先に何が残されているかも知らず、彼らは現状を受け入れながら彼らは失っていく。 それは自分の中の『何か』なのか。それとも大切な人との『何か』なのか……気付かず知りもしようとしないまま、彼らは失っていく。 これは、犠牲の上に育まれる愛の物語。 これは、自己犠牲の先に待ち構えている愛の物語。 これは、とあるプログラムの作られた恋の物語。 これは、『何』の物語? ♂♀ ここに二種類のとあるプログラムがある。 大人気シリーズの音楽ソフト。その比較的新しい部類のソフト。 タイトルは……確か 『サイケデリックドリーム02 ver.静雄』、通称:デリック。 『すばらしい日々』、通称:日々也。 そう、デリックと日々也。彼らもまた欠陥品の二体なんだ。 どう欠陥品なのかって?どうして欠陥品なのかって?まぁ、急ぐな。順を追って説明していくよ。 馬鹿げていて、それでも哀しくて、幸せな物語をね。 さて、話を戻そうか。 彼らのシリーズはウィルス駆除を搭載してるシリーズ、しかもそのオンオフが利くソフトだ。それなのにどうして欠陥があると知りながら、気付きながらウィルスを駆除し続けるのだろうか。答えは簡単だ、先に語ったように『大切な人を守る為』。 実に馬鹿馬鹿しくて愚かな考えなんだろうね。その思いすら既にあった心(プログラム)だというのに。 あぁ、そんな悲しい顔をしないでよ。俺は作られた想いだとしても君もことが好きなんだからさ。 そう、だからこそ、その思いがあるからこそ、彼らは過ちを犯し続ける。過ちだということにすら気付かないまま、ね。 これから俺が見てきた話をしようか。 ほんの一例。でも、彼らの想いに触れられるとある話を。 昔々あるところに……え、ふざけるのはやめろって?しかたがない。ちゃんと話すよ。だから怒らないで。 これは今から少し前の話だ。彼ら、『サイケデリックドリーム02 ver.静雄』が発売され、追う様に『すばらしい日々』が発売されてらから少し経った後の話。あぁ、まだ君は生まれていないから君にとってはつい最近の事になるかな。いや、君が生まれてすぐの出来事だったか。ごめんね、少し曖昧みたいだ。まぁ、そのくらいの時期だと思ってくれていい。 彼らが発売されて、新しく俺たちの仲間になった。 暫くは俺たちも彼らの仲間入りを祝福して、そして彼らをよき仲間と接していた。 相変わらず元からあるセキュリティを潜り抜けてウィルスの駆除を行いながらね。 その駆除に率先として参加していたのがサイケ、津軽、学天、デリック、日々也だ。リンダと俺は駆除機能がないし、他の面々は持ち主(マスター)により、駆除機能はオフになっていた。まぁ、サイケと津軽に関しては元々オンオフ機能がないのだから気持ちに関わらず強制的に駆除をしなければいけないのだけれど。 ウィルス駆除は順調に進んでいたよ。そう、恙無く、ね。 そんなある日、彼はこういった。 「おや、これは何ですか?」 何気ない一言。 そう、端から見れば何気ない、当人にとっても何気ない一言。 しかし、『これ』と指されたものの意味を知るものにとっては目を疑うような言葉だった。 指されたものは汚らしい布。 確かに何も知らないものから見れば捨ててもおかしくないボロ雑巾のような布だった。 しかしその場にいたものはそれがなんなのか知っている。いや、知らされていると、聞かされていると言ったほうが良いだろうか。隙があれば話題にだされるその襤褸切れは、彼……すばらしい日々の大切な、宝物だと話していた品物。その『宝物』を当人は汚らしいものを見るような目つきで周りのプログラムに問うていた。 それをきっかけに一変する日常。それは自分自身だったり、周りの態度だったり。 個体によってその反応は様々だった。その変化は日々也だけではない。駆除を行っていた他のメンバーにも兆しが見え始めた。 少しずつしかし確実に広がっていく。それは正しく毒の様で、復讐なのだと勘違いしてしまう『消失』。 気付かぬうちに失われていく『何か』。 さて、ここからは少し視点を変えてみようか。 ♂♀ 日に日に変わっていく周りの態度。はじめと比べれば掌を返したような態度だ。 「デリックって怖いよな。」 「化け物だっって」 「近づくな、巻き添えを食うぞ」 「ありえねぇってあの力」 「チートだろ、あの 強さ。」 「「「「「サイケデリック静雄には近づくな」」」」」 気付いたらそう言われるようになっていた。 気付いたら恐れられていた。 気付いたら距離を取られるようになってた。 気付いたら態度がよそよそしくなっていた。 気付いたら一人だった。 気付いたら、そう気付いたら。 俺が何か特別なことをしたわけではない。そんな記憶はない。 でも、気付いたら俺は今の状況に立たされていた。 でも、ただ一つ失わなかったものがある。 「デリック。」 「日々也!」 西洋の王族の格好をした青年。 一番大切な人。 守りたい人。 今の現状の原因を止めれない理由。 日々也が声を掛けてきてくれて俺はまっすぐにあいつの下へ駆け寄った。 「デリック。低俗の人間の言うことは気にしなくていいんですよ。ただの妬みです。自分にないものを持っている貴方を羨んで妬んでいるのです。」 「……そう、っすね」 駆け寄ってきた俺に微笑みかかて日々也は俺の噂をしていた奴らを睨むように、蔑むように見つめ、反応することすら馬鹿馬鹿しいという様に背を向けて歩き出した。 俺はそんな日々也に愛想笑いを浮かべてついていく。 前まではこんなことを言わなかった日々也。人を見下すことはおろか社交的な好青年だった。 それがある日を境に今の日々也へと変貌してしまった。 日々也に忘れられたあいつら。 あいつらに嫌われた俺。 原因は2人ともわかっている。 いや、日々也の場合は『忘れて』しまったかもしれねぇが。 それでも止められない、自殺行為(ウィルス駆除)。 「それに、皆になんと言われようと、俺は君の事を愛している。俺だけは君を拒絶しない。」 「……俺も、手前だけいれば十分だ。」 そう、どんなに嫌われても、恐れられても俺は日々也だけが居ればいい。 生まれた時から一緒だった日々也。 ずっとずっと誰よりも傍にいてくれて、俺を気遣ってくれた。時折抜けているところがあって放って置けないそんな日々也に俺は惹かれていた。 だから、俺は例え日々也に忘れられたとしても、日々也の傍にいて日々也を守る。だから、どんなに周りから疎まれようと俺は日々也を守ることはやめない。 そう、例え日々也自身に嫌われたとしても。 状況が悪化していく一方で、回復の兆しもないまま。 それでもいいと思っているそんなある日。 俺たちにも神様というモノがあるならば、その神は俺の最後の光すらも奪いに来た。 「ちょっとやべぇ?」 まだ寝ている日々也を置いて適当に散歩をしていると偶然見つけたセキュリティの歪。そしてそこから今まさにこちらの世界を浸食しようとしているウィルスを見つけたのだ。 当然俺はそのウィルスの駆除に回る。 俺の武器であるステレオをインストールし、ウィルス駆除の音楽を流し始める。 だが、本来この音楽でウィルスが無効化されるはずなのに目の前のソレには効いていない様に見える。 効いていないということはこのウィルスは新型と言うことで従来の(予めある)音楽では無効化出来ないということ。 新しく、目の前のウィルスに対抗する(薬)音楽を作るため ギターを インストールする。 「!」 何かしら曲を奏でようと絃に指を滑らせた時、目の前にウィルスの波が迫っていた。 いくらウィルスを駆除するために敵に強いタイプだとしても、この量のウィルスを浴びればただでは済まない。 ー日々也………! 今度はあいつの『愛』を失ってしまうのかと浮かぶ最愛の人の姿。 だが、むしろその方が良かったのかも知れない。 次いで聞こえてきた歌声に、俺は身体を強張らせた。 「すばらしい日々だ 力溢れ すべてを捨てて僕は生きてる」 「ひ…日々……也……」 振り返ったその先に居たのはさっきまであどけない顔で眠っていた日々也の姿。しかも唄を歌っている。ウィルス駆除の鎮魂歌を。 これ以上日々也が何かを失うのは耐え切れない。 日々也まで周りの目が変わっていくのはもう嫌だ。 「日々也、止めてくれ!日々也!!!」 「君は僕を忘れるから その頃にはすぐに君に会いに行ける」 「お願いだ、日々也!聞いてくれ!」 「懐かしい歌も笑い顔も すべてを捨てて僕は生きている」 「日々也!!!!」 ♂♀ そうして新型のウィルスはいつもどおり駆除され無効化された。一つのプログラムのメモリー(記憶)と引き換えに。 ねぇ、月ちゃん。彼はこの後なんていったと思う? あぁ、彼って言うのはすばらしい日々のほうね。サイケデリック静雄は暫く何も言えなかったようだからね。怖くて。 「…何って……何なんだ?」 同じモデルだからデリックを蔑むようなことを言ったらから怒ってるの?他意はないよ。うん。他意はね。 で、話を戻すと、彼、日々也はこういったんだ。 そう、君も半分は予想しているであろう言葉を。デリックにとって最悪の言葉を。 『「貴方は誰』ですか」 「あ、」 ……おや、これは日々也とデリックじゃないか。 どうしたんだい?噂をすれば影ってやつか? まぁ、相変わらず彼は俺たちを忘れているようだね。 「うるせぇよ。日々也。こいつらにかかわることはねぇ。」 「そうですか?俺の名前が聞こえた気がしたのですが。」 「気のせいだ。」 ねぇ、デリック。皮肉だとは思わないかい? 君が一番忘れて欲しくなかった人物には忘れられ、君が最も嫌っている人物はまだ君に『愛』を持っている。 あぁ、なんという悲しく、憐れで……面白い事態なんだろう。 おや、月ちゃん。どうしたの。そんな可愛い顔して。 え、俺がデリックを?これは比喩だよ。俺の本当の愛情を向けているのは月ちゃんなんだから安心していいよ。 「手前なんてさっさとウィルスに蝕(の)みこまれろ!」 おや、行ってしまった。全くなんだったんだろうね。 ん、今度は顔を赤くしてどうしたの? え、自分は良いから話を戻せって?仕方がない。 まぁ、見た通りだよ。 日々也はデリックの記憶すらも忘却し、同時にデリックは日々也の愛を失った。 ウィルスを駆除した代償としてね。 それでも見てごらん、彼らは不幸だろうか?愛を記憶を失えばそれっきりなのだろうか? 昔から彼らを見るものから見れば今の状況は『不幸』と答えるものが多いかもね。でも、君は彼らの姿を、彼らを間近でみてどう思う? あの表情を見ても君はまだ『不幸』だ『可哀相』だと答えるかな? 「幸せそうだ…」 そう、幸せというのは他人が決めるものではない。 いくら他人から不幸に見えても当人が幸せだということもある。 つまり俺が言うのは犠牲のその先が全て不幸なのだとは限らないということ。 人の幸せを自分の物差しで計るものではないということ。 さて、もう一つの彼らは、君はどう見るかな? ‐‐‐‐‐ 日記に上げた『ギセイノソノサキ』の本編です! デリックは愛を日々也は記憶をウィルスを駆除するごとに失うという設定。 自分でも最終的に何を書いているか分からなくなってなんだか初めと終わりがズレている気しかしない………。 次はもうワンペアの話を近いうちに上げたい。 |