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些細な事でも不安なんだ(帝正)




高校入学を機に地元に引きこもっていた僕は友達の誘いに乗り東京、池袋に越して来た。それから数日、目新しいことばかりで楽しんでいた。それもこれもこっちで良くしてくれる友人のお陰だ。
しかし、その友人、紀田正臣の様子が最近おかしい。
いや、様子が変わったとか雰囲気が変わったとかそんなんじゃなくてただ単に

「竜ヶ峰!」

僕の呼び方が変わっただけだ。前までは昔みたいに「帝人」だったのに何故か最近いきなり「竜ヶ峰」と上の名前で呼ばれるようになった。それ以外は前と何も変わらない。ナンパ癖も寒いギャグも人なつっこい笑顔も何も。だからこそ、その違和感が浮き彫りになる。
まるで距離を置かれた感覚に陥る。直球に理由を聞いてみてもはぐらかされ何一つ情報も状況も掴めない。

「今日はどこ寄ってく?そろそろ池袋も案内しきったし…よし、ナンパに」
「紀田君。」
「ん?」
「どうして?」
「何がだ?あーまたナンパなんてっーんだろ?そりゃナンパをするのは我等男子のDNAに刻まれし」
「違う。どうしていきなり苗字で呼ぶの?もうはぐらかさないで。」

今日もまた改めて聞いてみる。紀田君の表情から笑顔とか暖かい雰囲気とかが消えていき、真っ直ぐ見つめられた。歩み寄られ、真剣な表情に改めて突き放されることが怖くて思わず後退ってしまう。しかしそれも数歩下がった所で背中が壁に着いて強制的に引き止められ、紀田君との距離が縮まっていく。トンッと顔の横に手を突かれ益々逃げることは不可能だ。逃げようとすれば逃げられる。だけど自分から真実を聞こうとしていることと紀田君の表情がそれをさせない。

「りゅうが…いや、帝人。なら俺からも一ついいか?」
「…な…に…?」
「何でお前も『紀田君』なんて苗字で呼ぶんだ?」

紀田君の問いの意味が分からず何て答えたらいいか口ごもる。すると紀田君の表情が真剣な表情から困ったような、今にも泣きそうな表情へと変わっていくのに気付いた。

「帝人はもう…俺のことどうでもいいのかよ。」

肩に顔を埋める様に抱きつかれ、やっと正臣の言いたい事がわかった。つまり、正臣は僕と同じだったんだ。

「…もしかして淋しかった?正臣。」

何も言わないけど服を握る力が増した事がそれを肯定させている。
確かに、付き合う相手から苗字呼びなんてよそよそしくて距離を感じるもんね。僕がそうだったように。

「正臣が悪いんだよ。」
「は…何が…」
「急に引っ越しちゃうし、メールとチャットも一時期疎かになるし、ナンパとかするしギャグ寒いし」
「いや、ギャグは関係なくね?」
「だから正臣はこれからずっと僕の傍に居なきゃダメだからね。」

思わずツッコミを入れ、顔を上げたその頬を両手で包み込み真っ直ぐ見つめる。
ふにゃりと笑う幸せそうな表情にそっと唇を重ねて離れれば顔を真っ赤にした正臣がいた。
ナンパとか恥ずかしいことを言うわりにはこういうのに可愛い反応をしてくれる。

「ぉ…お前が『紀田君』呼びを止めたら一緒に居てやる。」
「さっきから『正臣』って呼んでるよ?」
「………わーった!居るよ、居ればいいんだろ!つか居たい。……だからお前も何処にも行かないでくれ、な?」
「うん。ずっと一緒にいるよ。」

甘える様に抱き着いてくる僕より少し大きい体を抱きしめ僕は囁いた。何かに怯える正臣を安心させるように。何かを怖がる正臣にそれを取り除くように。
何度も何度も彼の名前と愛の言葉を囁いた。



【些細な事でも安なんだ】




「正臣、愛してる。」
「何度目だよ…。」
「正臣が安心するまでかな。」
「…ならもっと。今だけじゃなく明日も明後日も一週間後も一ヶ月後も一年後ももっともっとずっと先まで」
「うん、何度だっていつだって言ってあげる。だから正臣も、」
「帝人、」
「「愛してる」」




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甘々になる予定がいつの間にか切甘に…。原作の帝正がかなりの影響を及ぼしているようです。
さてはて、こちらは『Poissond avril』のノヅ様に捧げます、ノヅ様のサイトの一万打お祝い小説です!本人様のみお持ち帰り、苦情、書き直し受け付けております。
ノロマ過ぎてもう二万打行ってるみたいですけどね!とりあえず一万打、二万打おめでとうございます!






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