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君のためのメロディー(滝正)



それを知った時、一番始めに思い浮かんだのは後悔だった。

「…帝人。滝口が黄巾賊に襲われた。」
「え…」
「見舞い行ってくる。」

大事な友人を守る為に黄巾賊に戻ったのに、大事な人を傷付けてしまった。ダラーズと名乗っていただけで黄巾賊の餌食になってしまった。
こんなことになるなら黄巾賊なんて作らなければ良かった。あの時解散させておけばよかった。今更どうにも出来ない後悔。
その人が運ばれた来良総合病院の玄関手前で足がすくむ。また同じだ、沙樹の時と。弱虫で臆病で、会いに行けない。病院の外観を見つめて、俺は背中を向けた。手にある黄色い布を握り締め、俺は逃げ出した。


♂♀



あれから数日、滝口は退院したけれど俺は会うのを避けた。俺が黄巾賊だってことは滝口は知らないけれど、でも俺が黄巾賊だってことは変わりなく、どんな顔をして会っていいのか分からない。結局、見舞いに行くと言って行けなかったこともあり、会わす顔がないのだ。
滝口の事は忘れるように俺は切り裂き魔の事件を追う。黄巾賊が無闇にダラーズを襲わない様に街を歩く。すると前方に見える会いたくない人物。

「あ、紀田。最近見なかったけど元気してる?」
「たき…ぐち…」
「…そうだ。紀田、少しいい?」

片腕はまだ完治しておらず首から吊される様子に思わず目を逸らし、何を言っていいか分からず口ごもっているといつもの調子で声を掛けながら滝口が俺の腕を掴んだ。何事だと滝口を見ると楽しげに笑い、こっちと腕を引っ張り歩きはじめる。行き着く先はどこにでもある公園で、大きな木の下に座り込む滝口に躊躇いながら隣に腰を掛けた。

「紀田が今何と闘ってるか知らないけど…きっと俺には力になれないんだろうけど…」

幹にもたれ空を見上げる滝口。一瞥してから同じように空を見上げれば真っ青で鮮やかな空。その綺麗な光景に見とれていると優しい音色が聞こえてきた。温かい、優しい音色。滝口が演奏する音色だとすぐに気付きながら俺は膝を抱えて顔を埋めた。

「俺は紀田のこと好きだから。どんなことがあっても、ずっと。」

きっと滝口は気付いている。最低でも俺が滝口を襲った黄巾賊のメンバーだと。未だに腕に巻かれる黄色い布。隠すこともせず、滝口の視線に晒されている。
それでも滝口はまだ俺の事を想ってくれる。それが辛くて苦しくて、

「…この曲、紀田の為に作ったんだ。」

嬉しくて泣きそうになる。もう一メロディー耳に届き、音色が止んだと思ったら手に触れる温もり。

「まだ未完成なんだ。…だからちゃんと完成するまで傍に居て欲しい。」

触れる温もりを握り返せど俺は何も言えずに、滝口の顔も見れずに、ただただ時間だけが過ぎていく。
滝口もそれ以上は何も言わず、だけど握り返した手を離すことなく傍に居てくれた。



【君のためのメロディー】




だけど俺は結局逃げ出した。





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弐萬打企画始動!第一発目は乙こ様の『滝正』です!実はアニメ21話で滝口くんが襲われたあたりからずっと書きたかった話だったりします。恋人の滝口くんが自分のチームに怪我させられ正臣はさぞいたたまれなかっただろうなと言う妄想。そんな正臣を滝口くんは唄を作ったりして癒してくれればなーっていう話。想像以上にシリアスになりました;
乙こ様、企画参加ありがとうございます!乙こ様のみお持ち帰り、苦情、書き直し受付ております!






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