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貴方の存在だけが全て(静正+@)


それは唐突だった。

「あ、正臣と静雄さん。」
「あ…今日和。」

学校帰り、帝人と杏里が一緒に歩いていると前方に見知った人物を見付けた。それは数十分前に用があるからと先に帰ったはずの二人の友人、紀田正臣と池袋に住む者なら知っておかなければいけない要注意人物、平和島静雄。
片方は友人、片方は顔見知り、無視をするのも失礼で軽く挨拶だけして去ろうとした帝人達だったが正臣の様子が可笑しかった。
帝人が擦れ違い様に挨拶をしただけなのに睨む様に見つめられ、あまつさえ静雄の後ろに隠れると言う行動。友人らしからぬ行動に思わず帝人は足を止める。

「正臣?」

当然帝人は何の冗談だろうかと首を傾げた。何時もならこの辺りで馬鹿な事を言ったり寒いギャグ等が飛んで来るのだが、しかし正臣の様子は変わらない。警戒している。そう言うのが妥当何だろうか、どういうことかと近付こうとすると震える体に精一杯威嚇するように睨む正臣。

「ねぇ…まさ」
「竜ヶ峰…だったか?」
「はい?」

信じられないと言うかの様に帝人の声が震える。それも当然だ。つい先程、数十分前、学校で別れるまでは何時も通りだったのだ。何時も通り、寒いギャグにツッコミ、またはスルーを入れて馬鹿をやっていた。それなのに今はまるで他人に接する様な態度、しかも人懐こい彼に警戒されているんだ。帝人の心は闇へ落ちかけた。その時、見ていただけだった静雄から初めて声を掛けられ帝人はハッと心を浮上させて静雄を見た。そうだ、この人ならば何か知っているのかも知れない。なんせ正臣は何故か目の前の要注意人物に懐いているように思えるのだから。微かな希望に縋る様に静雄を見つめ帝人は続く言葉を待った。

「なんつーか…悪ぃ…」
「…出来ればもう少し詳細が知りたいのですが」
「あぁ、そうだな。…実は」
「正臣君♪」
「ゃっ!」

歯切れの悪く切り出す静雄。困っているような申し訳ないと言うような、軽く凹んだ様子に何時も遠目でキレて人や自販機等を投げている姿しか見ていない帝人は多少なりとも驚いた。
謝る様子に何がと思いつつ怒らせない様に慎重に言葉を選ぶ。依然正臣は静雄の後ろに隠れたままで、やはり詳細は目の前の人物からしか聞けない。続く言葉を待っていると正臣の小さな悲鳴と次に新しい声が掛かる。
反射的に二人して正臣を見れば怯えと警戒を含む瞳で自分の背後から抱きしめる存在を睨む正臣がいた。その後ろの人物は様子が可笑しくなる前からも正臣が毛嫌いしていた人物、折原臨也。

「臨也!」
「あれーシズちゃん、まだ居たの?なにぃ?また暴力?また正臣君みたいに誰かを傷付ける気?」
「…っ!」

一触即発な雰囲気で殴り掛かろうとする静雄に臨也はケラケラ笑う。そして饒舌に語り始めた。

「正臣君を傷付けただけじゃ飽き足らず今度は帝人君や杏里ちゃんに手を掛ける気?うわぁっ最低。君の暴力がどれだけ周りを傷付けるかちゃんと分かってるの?今の正臣君だってそうだよね?さっきシズちゃんが投げたポストの巻き添い食って怪我させてさ。幸い脳震盪だけで済んだけど…君のせいで『紀田正臣』は居なくなっちゃったんだよ?分かる、この意味?君は一人の人間の人生を奪」
「静雄さんをイジメるな!」
「紀田…」

臨也の言葉は静雄の怒りと罪を煽るもので、いくら苛立つ内容だとしても事実―…静雄には言い返したりましては怒ることなど許されないものだった。不慮の事故だと言ってしまえば良いのだが、暴力を嫌うくせに大事な恋人を傷付けてしまった事には変わりなく、静雄は弁解することなく、臨也の言葉に怒りを覚えながらも黙っていた。
すると臨也の手を振り払い頬にビンタをしてから静雄を庇う様に、立ちはだかる様に正臣は言葉を上げた。記憶を無くした彼だが、誰が大切なのかは分かっているのだろうか…、臨也の言葉の刃で傷を負う静雄を癒す様に正臣は静雄に抱き着いた。

「アンタが言ってる意味はよくわからないけれど、静雄さんはいい人だ。アンタの方が平気で人を傷付け、踏みにじり、最低なんだよ!」

過去の潜在的に植え付けられた恐怖を思い出しているのだろうか、正臣は震える体で静雄に抱き着きながらも臨也に対抗する。
正臣の言動に驚き言葉を失う静雄、だが胸の内に温かさが湧いて来れば静雄は自然と正臣を抱きしめる。
未だに半分程しか状況が出来ていない帝人と杏里はただただ独特な雰囲気を作り始めている三人を見守るしかない。だが分かることは正臣が記憶を無くし、それでも平和島静雄と言う人間を大切にしていると言うこと。長年友人をやってきた帝人は少しだけ淋しくなるが表に出さない様に努めて三人の出方を伺った。

「正臣君、君は騙されているよ。シズちゃんはそんないい人間なんかじゃない。彼に傷付けられた人間は山ほどいるんだよ?それでもまだ庇うと言うなら…」
「…静雄さんは例え傷付けても、傷付いてます。代償を得てます。だから俺はここに居る。」
「本当、君は記憶が有っても無くてもシズちゃんの味方をするんだね。」

乱暴的に正臣の顎を捉えて視線を合わす臨也。その顔に浮かぶ表情は忌ま忌ましいと言ったところか。苛立ちを隠さず笑みを浮かべ、静雄の手が飛んで来る前に直ぐに離す。軽快な足取りで帝人と杏里に近付くと二人の間を割り込み、双方の肩を引き寄せた。

「でも、彼らの事は忘れちゃっているみたいだね。付き合って数週間のシズちゃんは覚えていて小さい頃からの付き合いの帝人君は忘れているなんて可哀相。」
「臨也…さん。」

臨也の言葉は帝人が感じて気持ちを引き出し、傷付けていく。どうして良いのか、答えて良いのか分からず帝人は戸惑ったまま臨也を見つめ、そして臨也の手を振り払い杏里の手を掴むと正臣の前まで駆け出した。
まだ少し警戒を見せる正臣だったが帝人から何かを感じたのだろう、静雄の後ろに隠れることはしなかった。それに安心しつつ帝人は正臣の手を取り言う。

「忘れられた事は悲しいけれど、無くしたのならまた築き上げればいい。」
「帝人君…」
「…。」

ずっと黙っていた杏里が呟く。ただ現状を受け入れ様としていた彼女だが、帝人の言葉に目付きが変わり、そして微笑んだ。「そうですね。」優しい声で呟くと杏里もまた正臣の手を取った。二人に手を握られる正臣。目を見開き、小さく笑う。

「僕らの友情は簡単には壊れない。」

そして帝人は臨也を睨み、宣言した。青春漫画のような青臭い台詞を。
それにいち早く声を上げたのは臨也ではなく正臣だった。何かを言うのではなく、笑い声。芸人のコントを見て笑うと言う様な大笑いで、言い出した本人は勿論、周りの皆が呆然と正臣を見る。
腹を抱えて笑う正臣はいつものようで、笑い苦しいと表情を浮かべて帝人の肩を引き寄せた。

「悪…いや、…まさか…ハハハッ…駄目だ、笑う。」
「…正臣?」
「紀田君?」

何かを言いたげにするが依然笑いが込み上げてくるのだろう、笑い声に言葉が掻き消されたが帝人には何と無く察しがついた。杏里は状況が分からず戸惑った声に対し、帝人は底冷えする様な低い声で正臣を呼ぶ。流石にその声を聞いて笑っていられる程正臣は馬鹿じゃない。笑い声は次第に引き攣った笑みになり、アハハッと空笑いになって正臣は帝人を見つめるとそこには満面の笑みを浮かべた帝人が居た。

「なーに、正臣君。今までの演技だったの?」
「…いや、アンタは本当に誰っすか?」
「…俺だけ酷いよね。」
「紀田…記憶が…?」

続いて臨也と静雄が声を掛ける。臨也への態度は相変わらずだが静雄には困った笑顔を向けた。そして帝人を一瞥して簡単に説明を始めた。
脳震盪を起こし気を失い目覚めた時には確かに記憶は飛んでいた。いや、記憶がちぐはぐに点在はしていたが欠如していたこともまた確かで、一時的な記憶喪失になっていたことには変わりなかった。しかしそれもまた時間が経つにつれ頭の整理が追い付き欠如していた記憶も戻り記憶を取り戻した事になる。しかし言い出すタイミングが掴めず、少し前まで記憶を失ったフリをしていたのだ。

「…戻ったなら普通に戻ったって言えばいいでしょ。」
「いや、つってもほんの少し前までは本当に帝人の事も杏里の事も静雄さんの事も分からなかったんだって。」
「俺は?」
「アンタは本当に俺の知り合いっすか?」
「…。」

それにしても静雄さんには懐いていたとふて腐れる帝人に正臣は嫉妬か?と冗談を言いながらその時の状況を説明する。記憶がちぐはぐな自分を心配してくれて、世話まで焼こうとする静雄に敵意も悪意も見受けられず、安心してくっついていたと言うことを。
帝人達を警戒していたのは臨也の事があり、静雄以外には不信感を持ち始めていたことを。
ごめんな?と謝罪する正臣に帝人は眉をハの字に下げてしょうがないなと笑う。

「ったく…心配させんな…いや、俺が悪ぃんだけど」
「静雄さんは悪くないですよ。俺が驚いて勝手にすっ転んだだけなんすから。」

帝人と仲良く笑う正臣を静雄はそっと抱きしめた。
大きな子犬だと苦笑を零しながら正臣は優しく静雄の頭を撫でながら空を見た。

(俺がこうして居られるのは静雄さんのおかげっすよ。)

点在する記憶の波に飲まれる掛けていた正臣を救ったのは傍で守っていた静雄だ。何が真実で何が詐りで、何を信じて何を疑って、何が自分で何が他人で、全てが混沌となる意識でただひたすらに輝いていた存在。本能的に感じた安心感。

「静雄さん、ありがとうございます。」



【貴方の存在だけがて】



「それで、いつまで俺は放置プレイ?」
「いや…マジにアンタのことだけ空白なんすよ。辛うじて覚えているのが折原臨也、23歳。怪しい事を仕事にしていて悪趣味の持ち主。静雄さんに殺される予定で、そろそろぶち殺されるなり警察に捕まるなりして死んでくれませんか?…ん?」
「何、その本能的に嫌っているのは覚えている的な記憶は。」







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終わってw
オチが迷走しまくりかなりの中途半端な気もしますが終わります。だって終わりが見えない。
とりあえず臨也の事は本気でまだ思い出せていない正臣です。可笑しいな、もう少しギャグになる予定だったのに…。
25つ目フリリクはののん様の『記憶喪失な正臣』でした。帝人達には警戒、静雄にだけ甘えるという美味しいネタを頂いたのになんだこのグダグダ感は!かなり申し訳ないです。
こんなんでも静正と言い張ります。
ののん様のみお持ち帰り、苦情、書き直し受け付けています!では企画参加ありがとうございました!






あきゅろす。
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