[携帯モード] [URL送信]
Happy Present?

乾杯の後、それぞれのグループを作り談笑へと入る。俺は専ら帝人と杏里と話していた。
内緒にしていたことをからかいながら料理を口へと運んでいると入口に立つ影に気付く。反射的にそっちを見ればそれは本当に影で、街の都市伝説が立っていた。

『誕生日おめでとう。これぐらいしか用意出来なかったけれど…。あ、味は大丈夫だぞ!杏里ちゃんに教えて貰った通りに作ってあるし、新羅にも味見してもらってある。』

PDAに打ち込まれて行く文字を目で追いながら苦笑を零す。端から見れば人間味のない存在なのに話すと誰よりも人間らしい。これで精霊と言われても納得いくようで納得出来ない。そんなことを思いながら差し出された綺麗にラッピングされた小さな袋を受け取った。

「よし、中身を当ててやろう。んー…クッキーだな?」
『よく分かったな。』
「そりゃ、毎日の様に可愛い女の子から差し入れを」
「正臣、嘘は良くないよ。」
「…。帝人!自分は貰えないからって嫉妬か?!」
「あーハイハイ。」
「お前…誕生日くらい優しくしてくれてもいいだろ?!」
「誕生日だけでいいの?」
「…!普段から!」

口を挟んできた帝人と軽い討論をしていると帝人の隣にいる杏里と、俺の隣にいるセルティさんから同時に笑い声が聞こえる。
お前のせいで笑われただろ、と肘で突いてやると何?と気付いていないように首を傾げられた。本当、こいつにはいつか俺の恐ろしさというものをだな…。
なんて考えているとテンションの高い声が聞こえる。

「紀田くん!誕生日おめでとう!」
「これ、俺達からのプレゼントっすよ。きっと似合うっす。萌えること間違えなし!」

セルティさんの横からひょっこり現れたのは予想通りというかこの前のことが軽くトラウマになりかけている狩沢さんと遊馬崎さんだ。手には大きな荷物。多分話からするとプレゼントなんだろうけど、なんだろう?
セルティさんはいつの間にか新羅さんの方に戻っていて二人で話していた。
その様子を伺い見ていると二人は座敷席に入ってくる。

「杏里ちゃんはこっちね?あ、紀田くんの生着替えが見たいなら別だけど。」
「え…あ、少し出てます。」
「はいはーい。」

代わりに杏里を追い出しってちょっと待て、何か不適切な言葉が聞こえた気がしなくもない。生着替えってなんだ?いや、一応座敷席の戸は閉めたから見られるという心配はないわけで…ん?

「帝人は何故いる?」
「追い出されなかったから。」
「…これから何があると思う?」
「推測するなら正臣の生着替え。」
「…出てけ!てか狩沢さんも今度は俺に何をさせるつもりですか?!」

ごく当たり前のようにちょこんと座り寿司に手を伸ばしている友人。蹴り転がすように追い出して狩沢さんに詳細を伺おうとして…あれ、この状況デジャブ。遊馬崎さんに押し倒されました。

「ゆ、遊馬崎さん?」
「大丈夫っすよ。手荒な真似はしませんから、…紀田くんが無抵抗ならって話っすけどね。」

デジャブも何もつい4日程前にワゴン内で襲われた状況と同じじゃないか!こんなことなら帝人を追い出すんじゃなかった!先に立たない後悔をしつつ遊馬崎さんと狩沢さんの様子を伺った。遊馬崎さんは俺が逃げれない様に両手首を掴んでい、その後ろでは狩沢さんがテキパキと何かを用意している。
フリル満点のシャツに蒼いスカート、大きめのリボンに、縞模様のハイソックス。

「今回はアリスちゃんです!」

やっぱりかー!生き生きとした顔で迫り来る狩沢さんに逃げられない事を悟ると無理矢理着替えさせられるのは嫌なので自分でちゃんと着替えることを伝えて解放してもらう。一人座敷席に残り広げられた服を見て溜息を一つ。

「今日、俺の誕生日だよな?」

確かに狩沢さん達らしいプレゼントではあるが。
諦めて俺は服を脱いだ。

軽く着方に迷うが伊達に狩沢さん達に遊ばれていない。今まで無理矢理着させられたことを思い出しながら着ていき、終わるともう脱ぎたい思いでいっぱいになる。外から狩沢さんの声がして無視をするわけにも行かず答える様に閉められていた戸を開ける。
何故か有名人を出待ちするように点在する人々。その中にセルティさんや新羅さん、門田さんや静雄さん、杏里もいる。他のメンバーは半分予想通りだからもう驚かない。

「やっぱり似合うね、紀田くん!この前ちゃんと採寸出来なかったからサイズ心配だったけどピッタリで良かった。」

目を輝かせながら話し掛ける狩沢さんに正直嬉しくない。まだこれが男物なら照れ臭くなるだろうが明らかに女物だ。似合うと言う方が悲しくて泣きたくなる。

「悪いな…一応止めたんだが…。」
「門田さん…いえ、門田さんのせいじゃ」

労るように声を掛けられ門田さんを見る。顔には苦悶。門田さんもあの二人には手を焼いているんだと思いながら苦笑を零した。当事者は二人して妄想の世界へトリップだ。どうやら俺をアリスにした不思議の国のアリスストーリーを話している。臨也さんがチェシャ猫だ、帝人が白兎だ、静雄さんが帽子屋だとか聞こえるが…無視だ。
はぁと呆れた溜息をついていると目の前に差し出された紙袋。視線を上げて見てみると門田さんと目が合う。

「ほら、お前に誕生日プレゼントだ。」
「え、あ。有難うございます。」

何だろう、感触的には柔らかいから服とかそういうのだろうかと興味津々に見ていたら「似合いそうな服が合ったから」と心中察しられ告げられた。そんなにもあからさまだったかと悪い様な気がしたが門田さんは気にした様子なく、俺は笑顔を作り再度礼を言う。今度着た時門田さんに見て貰おうかななどと考えていると視界の端に場違いなモノを見て視線を反らした。あれはきっと見間違いだ。臨也さんがもじもじ顔を赤らめて機会を伺っている姿なんて俺は見てない。つかウザいだけでなくキモい。

「あ、正臣くん。無視は酷いな。」
「アハハ、臨也さん居たんですか。静雄さんが居るのでてっきりもう駆除されていると思いました。」
「心配しなくても今日、この店の中だけは喧嘩しない約束になってるから大丈夫だよ。」
「…チッ」

どおりでいつもの叫び声と破壊音がしない訳だ。でもそんな約束だけで良くもあの静雄さんが大人しくなるとは驚きだ。仲裁役のサイモンがいるからだろうか?
気になることだが今はどうでも良いことを考えていたのが災いしたのだろう。いつの間にか近付いて来た臨也さんにがっしり逃げられない様に肩を掴まれた。
こういう場合、嫌な予感しかしないのは日頃の経験。

「俺からのプレゼントはこれだよ。」

そう言って初々しく渡された一つの封筒。臨也さんのことだから『俺』とか言って勝手に居着いたりストーカーするのかと思ったけど…何だろう?分厚くもなく平たい。中に小物が入っている様子もなく手紙…商品券とかだろうか。臨也さんらしくないなと思いつつ開けてご覧、と促され封を解いた。

「あーちょ、コンマ数秒でそれは酷くない?!」
「いや、当たり前っす。」

前言撤回。臨也さんらしいプレゼントでした。

「また役所に取りに行かなきゃいけないじゃないか。まぁ、行くのは波江だからいいけど。」
「…どこの世界に誕生日プレゼントに婚約届けを渡す人がいますか。」
「構わないだろ?付き合っ」
「合ってません。妄想は狩沢さん達と語り合って下さい。」

破り捨てた婚約届けに後で掃除しなければと考えながら紙屑と化した破片に『夫となる人』にちゃんと臨也さんの名前が書いてあることに気付き足で踏み付けてやる。この人にまともなプレゼントを期待した俺が馬鹿だった。商品券だったら家計が浮く!とか喜んだ俺が阿保みたいだ。いや、実際阿保か。
隣でシクシク鬱陶しさ満点でいじける臨也さんを放置し、帝人達の輪に戻ろうとするとぐいっと肩を引かれ後ろによろめいた。

「悪っ…!」

トン、とそのまま支えられ、上を向けば静雄さんと目が合う。静雄さんのことだから軽く引き寄せたつもりが、ってやつだろう。気にしなくていいと笑うとホッとしたように笑いかけられる。

「今度は静雄さんっすか?」

この流れを見ると今度は静雄さんからプレゼントだろうかと、厚かましかっただろうかと思いつつ問えば肯定される。

「ほら、…はっきり言ってこう言うのは慣れてねぇんだ。」

少し照れているのか顔を背け、明後日の方向を見ながら手渡される小さな袋。開けても良いかと聞けば了承され、ゆっくり丁寧に封を解いた。中から出てきたのは小さな犬の縫いぐるみが付いたストラップ。
本当にこう言うイベントには慣れていないんだと、プレゼントを選ぶ静雄さんの姿を想像すると自然に笑みが零れた。

「ありがとうございます。」

笑顔で礼を言えば安心したように笑みを返され頭を撫でられた。前から思っていたけど癖なんだろうか。
どうなんだろうと思いながら携帯を取り出し早速付けようとする。が、それはいきなりめくれ上がったスカートにより遮られた。

「隙あり!」
「?!」
「な…」

それから後ろからギュッと力強く抱きしめられる。この声は、こんな行動するのは、

「いぃざぁやぁぁああ!!」

折原臨也ただ一人。
慌ててスカートを押さえたが…多分静雄さんには見られた。他の人達は静雄さんの声で何があったと視線を向けているからセーフ、だろうけど…確実に主犯と静雄さんに見られた。さすがに下着は普段通りだけど…それでも見られて嬉しいものではない。
ついに喧嘩が始まった二人を見て、怒るタイミングを失い避難も兼ねて帝人達の輪に戻る。

「正臣、似合うよ。」
「似合っても嬉しくねーよ。」

カウンター席の、帝人の隣に座れば苦笑を浮かべながらの感想に深い溜息が出た。帝人のつまむ寿司を横取りしながらサイモンまで加わった喧嘩をBGMに帝人を見る。

「なぁ帝人、サンキュー。」
「どうしたの、改まって、」
「いや、ほら…こっち来てこんな盛大に祝われたことねーから、純粋に嬉しい。こうやってまた帝人と誕生日過ごせたわけだしさ。」

この誕生日パーティーが始まってからずっと思っていたこと。地元に居た時だってこんな楽しい誕生日パーティーは無かった。この街に来て、色んな人と出会って、帝人が居て杏里が居て、だからこそ楽しいと思えるんだ。
素直に礼を言うと拍子抜けというマヌケな表情の帝人と目が合う。
マヌケだなと考えていると近付く帝人の顔。何処か真剣な表情に目が離せない。

「帝…人…?」
「正、臣…」

息が掛かるほど近付き、

「あ、あの…」

杏里の声に顔を赤らめた帝人が離れていく。

「そ、園原さん!どうしたの?」

どこか慌てた様子の帝人にどうしたのだろうかと首を傾げた。そして杏里を見れば杏里もどこか顔を赤らめていて、二人して風邪か?

「お邪魔…でしたでしょうか…。」
「大丈夫、大丈夫。邪魔も何も野郎といるよりエロ可愛い杏里とラブラブイチャイチャのほうが最高!」

隣に座る様に促しながら杏里を見ていると帝人に足を踏まれた。何故だ!?エロか、お子ちゃまな帝人にはまだエロは早かったのか?!
ジトーッと帝人を見ていたが何故かご機嫌斜めらしく顔を逸らされた。本当何なんだよ。杏里を見て癒されよう。

「で、どったの?あ、今度は杏里のプレゼントか?杏里にリボンをくるくる巻いて」
「正臣、そろそろ黙って。」
「帝人怖い。」
「知らない。」
「え、えっと…」
「……園原さんから渡してくれる?正臣もその方が良いみたいだし。」

本格的に帝人のご機嫌が斜めだ。ふいっと顔を背けたままこちらを見ようともしない。つか、冗談のつもりだったが二人からもプレゼントがあるってことか?サプライズパーティーだけでも嬉しいのに。

「…帝人くんも、紀田くんの喜ぶ姿見たいって頑張っていたじゃないですか。」「…」
「杏里、いーよ。帝人は照れ屋さんだから面と向かっては恥ずかしい訳。初な奥手くんは放っておいて何?」
「でも…」
「それに、俺は喜ぶ姿が見たいって気持ちだけでも嬉しい」
「あぁ、もう!正臣、何、僕を辱めて楽しい?!」

あれ、何で俺は怒られてんの?あぁ、照れ隠しか、可愛いやつめ!ん、でも男にそれはおかしいか。

「…ほら、正臣。」

帝人が手渡す小さな包み。それを合図に杏里からも2つ机の上に同じ包みが置かれる。
選んで、と帝人に言われ適当に1つ手に取る。そのまま開けて見ると中からはデフォルメで『親』と掛かれた軽く装飾されたストラップが出て来た。
帝人と杏里も同じ様に残りの包みを取り封を開ける。それぞれ同じ装飾をされた『友』、『大』と掛かれたストラップ。

「ユウシンダイ?」
「正臣、それわざとだよね。」
「冗談だって、だから睨むな。『大親友』…か。」

それぞれ一文字ずつ持って、一つの言葉を作る。3つあるからこそ意味を持ち、1つでも欠ける事を許さない。

「これ…狩沢さんに教えて貰ったんです。」
「園原さんがデザイン考えてくれたんだよ。」
「…本当、どこまでサプライズだ。」

今日は驚かされてばっかだな。
照れ臭そうに笑ってると座敷席から声が掛かる。

「紀田くん、帝人くん、杏里ちゃん。ゲームするからおいでよ。」

狩沢さんが何かゲームを持ってきたらしい。呼ばれる声に返事をして帝人と杏里の手を握る。

「行くか、大親友共よ!」

笑顔を作れば笑顔で返され、俺達は座敷席へ仲良く入っていった。






♂♀



「あれ、これ」
「はい?」

帝人と杏里の手作りケーキを食べた後、休憩とゲーム真っ最中の輪を抜け出すと臨也さんに声を掛けられた。まだ居たんだ。あれから姿を現さなかったから静雄さんに駆除されたとばかり思っていた。
極自然、当たり前の様に髪を書き上げられ嫌な顔をしいると視線が耳に止まっていることに気付く。

「貰い物?これムーンストーンだよね。」
「幽さんからお土産にって。」
「ふーん。」

耳にあるピアス、昨日幽さんから貰った経緯を簡単に説明していると人から貰ったものをどう使おうと勝手だろうに、それを見ながら臨也さんはかなり面白くないと言う顔を作る。

「正臣くんってその宝石言葉知ってる?」
「…さぁ。」
「そ、なら良いや。ねえ、抜け出して俺とデートしない?」
「そろそろ死んでくれませんか?」

肩に手を置くそれを払いながらカウンター席に着いてデニスさんに握りを頼み、昨日、このピアスをくれた人物と臨也さんの言葉を思い出す。

(宝石言葉、か…)

知らないわけじゃない。たまたまだけどムーンストーンは6月の誕生石で、宝石言葉は『永遠の愛』で、俺はそれを知りながらこのピアスをつけている。

「…俺、幸せ過ぎて死ねる。」

今日、改めて知る、知人達の想い。まだゲームの輪の中にいる友人を見つめ

「…サンキュー、帝人、杏里。」

小さく微笑んだ。








第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!