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正誕カウントダウン1

6月18日。

本日も正臣は帝人も杏里も捕まらず一人で街を歩いていた。昨日臨也に言われた事を考えながら。
何か目的があるわけでもなく、ブラブラと歩いていると視界の端に見慣れた人影。

「帝人、杏里?」

見間違えかと一瞬考えたが眼鏡っ娘で胸の大きな来良の生徒といえば杏里以外考えられず、正臣は声を掛けようと駆け寄った。しかし二人は正臣に気付かず一つの建物へと入っていく。
露西亜寿司、ロシア人の二人が営む寿司屋だ。正臣も追って入ろうとすると呼び止められた。

「オゥ、紀田の坊ちゃん。久しぶり。」
「サイモン。」

外国人らしく訛りの入ったカタコトの日本語で正臣に話し掛ける黒人の巨人。サイモンは正臣に向けて満面の笑みを見せた。釣られて笑みを浮かべながら正臣は帝人達が中に来ていないかと尋ねるが答えはノー。仕方がなく中で飯でも食べながら姿を探すかと店に向かい歩き出すと肩を捕まれ正臣はどうしたのかとサイモンを見た。

「今日ハ店じまいね。閉店。ゴメンネ。」
「え、でも今、帝人達が」
「また明日。明日来るといいね!笑顔満開、お店繁盛!」
「な…」
「そういうわけだから寿司は逃げない。また明日ね。バイバイ。」

頑なに店に入ることを許さないサイモンに正臣は肩を落とし諦めると「なら明日はサイモンの奢りな?」と冗談を言いながらその場を後にした。適当に歩きながら帝人に電話するが電源が落ちているのか繋がらない。一つ溜息を落とし行き着いた公園の適当なベンチへと腰を掛ける。
胸を巡る疑念に虚しさ。臨也の言葉がループして正臣の心身を侵していく。

(仲良しごっこ…か。別にあいつらが付き合う事に嫌だとは思わない。例えこうやって一人の時間が多くなろうとも。でも、)

浮かぶ思いを整理しながらベンチの背もたれに体重を掛けて晴れ渡る空を見上げた。

「あ」
「?!」

その先にあったのは無表情に近い綺麗な顔。覗き込もうとしていたのかガッチリの目が合い正臣は驚きに目を見開いた。
一方、正臣に声を掛けようとしていた青年は表立った表情の変化は見せず小さく声を漏らした後、同席を問う。

「あ、どうぞ。珍しいすね。幽さんが一人なんて。」
「今日はオフだから。正臣に会えて良かった。」

平和島幽。静雄の弟で羽島幽平の名で俳優を勤める有名人だ。静雄を通じて出会い、メールのやりとりは頻繁にしていたが会うのは久しぶりに近い。何せ有名人である幽と中々予定が合わないからだ。
だから今日、此処で会えたのは奇跡に近いとも言える。

「俺に用でしたか?」
「これ、渡そうと思って。」

そう言って渡されたのは手の平サイズの小袋。開けても言いかと目で尋ねれば同じように頷き構わないと目で語る幽。
何だろうかとワクワクした素振りで正臣は袋を開き、手の平に中身を取り出した。中から出て来たのは小さな塊が二つ。

「あ、これピアスすね。」
「正臣に似合うと思って。」
「え、でも」

小さな透明感のある石がはまったピアス。幽は外国にロケに行き、その休憩中に見付けたらしい。正臣に似合うと思い購入し、土産と幽は渡したのだ。シンプルなデザインで無駄のない装飾、安値では決してないと正臣でも分かり受け取るのを躊躇わせるが、幽に引く気配もなければ有り難く貰う事に決めた。

「なら今度何か奢らせて下さい。」
「そのつもりじゃ」
「俺がしたいだけですから。ほらこれでおあいこ。」
「…正臣、元気出た?」
「え…」

満面の笑みを浮かべる正臣を見て幽もほんの僅か、パッと見だけでは気付かないくらい僅かに微笑みを見せた。そして幽の言葉に当然へこんでいたつもりのない正臣はキョトン顔を作る。詳しく聞けば雰囲気から暗く、何か悩んでいるようだったと言う。見て分かるほど悩んでいたのかと苦笑を零しながら隠してもバレるだけだと正臣は簡単に幽に今日までの出来事を話す。

「大丈夫。正臣の周りの人は優しい人ばかりだ。皆、正臣の事を好きで大切に思っているから。」

直球に返ってくる返答に気恥ずかしさを覚えながら礼を浮上した気持ちを言った。

「明日、帝人達にちゃんと聞いて見ます。」








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