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手前に沢山の愛を(静正)

いつからか始まり切れる事なく続いている紀田との暇潰し。発端はちょっとしたアクシデントで、気付いたら懐かれていた。
以前見掛けていた雰囲気とは打って変わり何処か凹んでいるアイツを放っておけなかったのも一因だろう。
詳しい理由は知らないがカラーギャングのトップを努め、俺に喧嘩を吹っ掛けたあの日以来、コイツの周りから二人の友人が消えていた。
詳しく知ることはコイツの傷をえぐる事であり、コイツの望まぬ事だ。だから俺は敢えて聞こうとしない。

「静雄さん、知ってます?」
「あ?」
「今度池袋でドラマロケがあるんですよ!そのロケが聖辺ルリのドラマらしくって」

普段と変わりなく紀田の話に耳を傾け元気に振る舞うその様子が逆に痛々しく、何故コイツはこんなにも空元気に振る舞うんだ。
そっと手を伸ばして頭を撫でた。ポカンと目を見開く紀田に言葉も掛けずに頭を撫で続けた。

「えっと…静雄さん?」
「なんだ?」
「いや…その…」
「…気にするな。」

頼る術を知らないのか、誰かに手を伸ばす事を苦手にするのか、そんなことは知らねぇ。甘えられないなら甘やかすだけで、頼る術を知らないなら教えるだけで、手を伸ばす事が苦手なら掴んで引き上げるだけだ。
撫でていた手で後頭部を掴むとそのまま引き寄せた。胸に簡単に収まる華奢な体を抱きしめて、

「紀田、   」

俺はそっと額に口付けた。
ビクッと紀田の身体が跳ねて、どうしたら良いのか分からないと言うようにあたふたとしていたがそのうちギュッと服を掴む力を感じる。
いつかコイツが口にした好きはまだ友愛で、俺が口にする言葉は恋愛で、食い違う愛。
それでも今は構わねぇ。まだコイツには教えなきゃいけねぇ事が沢山ある。


【手前に沢山のを】


いつか、コイツが心から笑う日があるならば、その時に。


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軽くシリーズ化している【小さな優しさで恋は始まる】⇒【触れる温もりの温かさ】⇒【貴方から貰う物】の続編の静雄編。
さっさとくっつけばいい。あと【貴方から貰う物】の静雄編とリク貰いながら続編の静雄編ですみません。帝人云々入れ損ねました。



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