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お酒は人を変える(静正+帝&臨)


今年は寒い日が長く続いたり三月なのに雪が降ったりと中々春が訪れない。しかし確実に春は近付いており、TVのニュースでは桜の満開宣言などがちらほらと見掛けるようになった。池袋でもその宣言がされ、それが日曜だということで、久しぶりのデートと言うように普段中々会えない正臣を、静雄は花見に誘うことにした。

「うわぁ、やっぱり混んでますね。」
「だな。…座れそうか?」
「ん…大丈夫みたいっすね。」

近くの公園へと訪れた二人。日曜だということで公園は花見客で溢れ返っていた。しかし喧嘩人形と池袋の有名人である静雄を見た途端、花見客は道を空ける。関わりたくない、下手に喧嘩を売るような真似をしたくないと言うように。
その風景に正臣は少し目を細め、そして直ぐに笑顔を作っては静雄の手を引いて適当な場所に腰を掛けた。

「久しぶりに電話くれたと思ったら花見とかびっくりしましたよ。」
「満開だとニュースで言ってたからよ。最近ゆっくり会えねーから、」
「嬉しいっすよ。」

それぞれに持ち寄った飲料や食料を適当に開けながら正臣は楽しそうに語る。冗談混じりに「楽しみで寝れませんでした。」なんて笑顔で言う正臣に静雄は可愛いと思い、もう既に癖になりつつある幼子にするように頭を撫でれば正臣は照れくさそうに笑う。釣られ静雄も口元に笑みを浮かべて頭上にある桜を見つめた。

花見と言えど何かを特別する訳ではなく、いつものように談笑をしながら持ち寄ったジュースやお菓子を摘んでいく。よく語り、動く正臣に、耳を傾け、行動一つ一つに愛おしさを覚える静雄。暖かく優しい風が二人の間を擦り抜けていく。
そして、穏やかな日常は暖かな春風と共に過ぎ去ることとなる。

「それで帝人の奴、春眠暁を覚えずってやつみたいにメシ食いながら寝ててー」
「はい、飲み物」
「あ、ありがとうございます。それで俺はちょっとそんな帝人に…っては?」

今まで会えなかった分を埋めると言うように正臣はあれやこれやと話を進める。学校であった友達との馬鹿騒ぎを中心に話していると正臣の横からはい、と出された飲み物。話に夢中な正臣は差ほど違和感を覚えずに受け取り、話で渇く喉を直ぐに潤し、そして再び話始める。しかしふと疑問に思う。今日は静雄と二人で花見に来ていなかっただろうか?疑問に気付いた正臣は口を止め、今さっき、飲み物が出て来た方を見る。勿論、静雄は正臣の正面にいるのだから、可能性は皆無。
向けた視線の先にいた人物に正臣は勿論、静雄もとても不快そうに顔を歪めた。

「やあ。」
「…何しているんですか。…い」
「臨也!」

少しは抑えようと思ったらしい、静雄だが、やはり数々の煮え湯を飲まされた過去に理性は利かない。立ち上がり、即座に臨也へと殴り掛かる静雄。こうなっては自分にはどうすることも出来ないと分かりきっている正臣は仕方がなく事が過ぎ去るのを待つことにした。

「あれ、正臣?」
「お、帝人。」

暇だし、どうするかと臨也に渡されたジュースを飲みながら、時折人、時折ベンチが舞う遠くの風景を眺めながら考えていると掛かる声に、焦点を合わせる。すると私服に肩掛け鞄を掛けた帝人が立っている。暇つぶしを見つけた、と言わんばかりに笑みを深めた正臣は直ぐさま立ち上がり帝人にもたれ掛かるように肩に腕を回した。

「んーどうした、帝人?一人ぼっちで淋しく花見かー?」
「正臣、顔赤い…ってお酒臭い!ちょ、それお酒!」

いつもより上機嫌でほんのり顔が赤い正臣に帝人は風邪かと一瞬心配するも、微かに匂う独特なアルコール臭に考えを切り替える。何故正臣が酔っているのかと手に持つ缶のパッケージをみれば『酒』の文字。どういう経緯でお酒を飲んだか分からないがこのまま放っておくことは出来ず、帝人は一つ溜息をついた。ところで、正臣は更に抱き着いてきた。横からくっつく形から正面に抱き着かれ、先程よりも近くなる顔に帝人の心拍数は上がり始める。

「帝人…」
「っ!」

へにゃりと柔らかく笑顔を作る正臣に帝人は困惑してしまう。

(正臣は静雄さん、のだ。…だから僕は)

長年片想いをしていた友人。想いを打ち明ける前に友人は別の人のモノとなってしまった。だから、行き場のない想いを隠し今まで通りの関係を続けていくつもりだった。しかし、酔っているとはいえ、いつもよりも大胆なスキンシップに帝人の理性も少しずつ崩れ始めている。

「なぁ、帝人!」
「へ、な、なに?」

いきなり怒ったように声を掛けられ、ビクリと正臣を見る。むぅっと効果音が付きそうな程頬を膨らませる友人に、帝人は何が不満なのかと首を傾げると次第に近付く友人の顔。

(え、え、)
「好き」
(えー??!)

内心叫ぶ帝人。重ねられる唇の感触に帝人の理性は既に砂上の城。柔らかく、温かい正臣の唇に帝人は無意識に正臣を抱き寄せ口づけを深めようとした瞬間、正臣はパッと離れてギューっと抱き着いてきた。そして、

「静雄さん、なんだか小さくなりましたぁ?」
「…」

友人の恋人の名前。酔いの回った正臣の目にはもう帝人は居なかった。そう思い知らされる言葉に帝人は胸の痛みを覚える。しかし、口にも表情にも出さずベッタリと恋人と間違えて甘えてくる友人を宥めるようにポンポンと背中を叩いた。

「正臣?僕は静雄さんじゃないよ、ほら、しっかりして。」
「やー」
「ああ。もう出来上がっちゃてるねえ。」

嫌だと言いながらギューッと抱き着いてくる正臣に困り果てていると新たに加わる声。背後から聞こえるそれに帝人は緩く振り向くとやけに楽しそうな笑みを浮かべる臨也が立っていた。どうやら静雄を撒いてきたようで、遠くから静雄の怒鳴り声が聞こえている。

「臨也さんですか、正臣にお酒飲ませたのは…って正臣!」
「飲んだのは彼の意思、っと。俺はただ何食わぬ顔して渡しただけだよ。」

ギュッと抱き着いていた正臣は帝人と臨也が会話している間に今度は臨也の方に自ら抱き着きに行った。普段なら考えられない行動に臨也は大層満足げに正臣を抱きしめる。

「事実、俺だってここまで酔うとは思わなかったよ。」

頭を撫で、その手を滑らせ顎へ持ち上げれば臨也は正臣に口付け、る前に帝人の手により阻まれた。そのまま正臣の肩を抱き寄せ引き寄せようとするが、帝人の腕に収まる前に臨也は正臣の腕を掴む。両者から反対方向に引き寄せされ、正臣は感じる痛みに小さく呻くとその両方を振り払う。

「お前ら、静雄しゃんの名を語るにしぇものだな!」
「「……。」」

完全に酔いが回った正臣は呂律の回ってない舌で、ビシッと宣言する。言い当ててやったぞ、と言うように得意げに笑う正臣に帝人は扱いに困る、と言った表情、臨也はとても楽しいものを見る、と言う表情と自分を見ない正臣に嫌悪する、と言う表情を浮かべた。

「俺の静雄しゃんを何処へや」
「ああ、煩いな。この口はシズちゃんしか言わないの?」
「正臣!」

ジッと敵意、剥き出しに睨む正臣に段々と不快に思ってきた臨也はその頬を摘んだ。痛いと涙目になる正臣を帝人は助け、臨也の手が届かないように遠ざかった。しかしすんなり逃すわけのない臨也が正臣に手を伸ばしたところで臨也の体が吹っ飛んだ。飛んで来た公園に設置してあるごみ箱により。

「臨也!やっと見付けたぞ!」
「げ…シズちゃん、」
「静雄しゃん!」
「!?」

かなり御立腹の静雄が現れ、臨也は正臣に構っていられなくなる。忌ま忌ましげに静雄を睨み、ナイフを構えたところで静雄の登場に気付いた正臣が帝人の腕の中から抜け出して静雄に抱き着いた。いきなりの衝突にも似た振動に不機嫌顔でその元を見て、静雄の表情が和らいだ。

「紀田、どうした?って顔赤いぞ、大丈夫か?」
「静雄しゃん、静雄しゃん」

まるで幼子に戻ったように擦り寄る正臣に違和感を抱く静雄。臨也に何かされたのかと臨也が居た方を見るが既にその姿はなく、「逃げ足だけは早いやつめ」と舌打った。とりあえず正臣をどうにかするかと様子を見ようと引き離そうとするが離れない。どうするかと困り始めたところで帝人が口を開いた。

「…静雄、さん。どうやら正臣、お酒飲んだみたいで」
「つーことはコイツ、酔ってんのかぁ?」
「多分。」

酒、その単語で何となく状況を察した静雄は再び正臣を見ると安心仕切った顔でスヤスヤと眠りこけている。はぁと溜息をついて静雄は正臣を抱き上げた。

「ま、寝ちまったみてーだし、帰るわ。」
「あ、は、はい。」

一言帝人に言うと静雄を人混みを避けて帰路についた。


次の日、静雄の家で目を覚ました正臣は何も覚えておらず、静雄の家に居る理由や、花見がどうなったのかなど混乱したのは言うまでもない。
そして、静雄は自分がいない所で酒を飲むなと念入りに正臣に忠告するのだった。







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フリリク15こ目は匿名様の『←帝人+臨也。酔っ払い正臣。』でした。帝人も臨也もいる場面で正臣はどうやってお酒を飲むだろうかと考えたら、花見が一番書きやすいかなとこうなりました、すみません、かなりの季節外れですね、今5月wそして相変わらず臨也と静ちゃんが同じ場面に立つと喧嘩、臨也と帝人が同じ場面に立つと正臣の取り合い。…同じネタばかりですみません。それしか思い付かない←
では壱萬打企画参加ありがとうございました!





あきゅろす。
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